太平洋フェリー「きたかみ」、新たなる航海へ
「きたかみにようこそ」
新しい船への最初の一歩は、壁に投影されたこの文字に迎えられた。入口正面のキッズエリアは、インタラクティブ映像が多彩に演出する不思議な空間。そこには歓声をあげながら遊んでいる子供たちの姿があった。
圧巻だったのは、中央階段の天井と壁面で繰り広げられるプロジェクションマッピングのショー。幻想的な映像が、ちょっと宇宙を遊泳している気分にさせる。
今年1月に引退した先代「きたかみ」はよく「平成の30年間を駆け抜けた」と形容されるが、同じ名前を引き継ぐ新船はもはや新しい元号では表現できない。船内は「スペーストラベル」(=宇宙旅行)という、フェリーとしてはかなり斬新な空間だからだ。
「あら、どうしてこの船はショーがないの!」。デビュー直後に乗船したとき、そんな乗客の声を耳にした。太平洋フェリーといえば、ラウンジショー。しかし、新「きたかみ」ではカラオケ、ゲームコーナー、軽食スタンド、そしてスイートルームとともに姿を消した。
中村英樹チーフパーサーに初乗船時の印象について尋ねると「機能的かつシンプルな船だなあ」という答えが返ってきた。
パブリックスペースが中央部に集中している。その分、少人数のクルーで運営でき、その動線も把握しやすくなったことで「働きやすくなった」という。
ここで気にかかっていたことを尋ねてみる。ラウンジショーが無いことに対する乗客の反応だ。「初めは不満というより、戸惑いを覚える声が多かったですね。最近は少なくなりましたが」。そしてこのように続けた。「それらに代わり、ウィズペットルームやコインランドリー、シャワールームなどが新設されました。コンパクトな分、初めてフェリーに乗るという方には最適で乗りやすい船だと思います」
乗りやすさ。それは客室に顕著だ。大部屋はなくなり、それと同じ価格でカプセルベッドに泊まれるC寝台を新設。また、相部屋ながら個室感覚で利用できるエコノミーシングルも登場した。クロスツイン、フォースとユニークな1等客室も用意され、快適性は格段に向上した。