飛鳥ブランドを表現する、オリジナルグッズの舞台裏
表現した、機械式腕時計
●セイコー プレザージュ 飛鳥Ⅱコラボレーション限定モデル
今年9月、セイコーウオッチと飛鳥クルーズのコラボレーションによる限定の腕時計が発売された。きっかけは2019年11月、セイコーウオッチから「(同社の高級ブランド)『プレザージュ』で一緒に何かできないか」と打診があったことだった。
提案を受けた郵船クルーズの髙橋幸男執行役員は「セイコーは日本を代表する時計ブランド。われわれは『本物との出会いと感動を伝える存在でありたい』と常に考えており、セイコーはコラボレーションの相手としてふさわしいと感じた」という。
セイコーは日本の職人による真摯なものづくりを通して、顧客に喜びや感動を伝えている。それは、飛鳥クルーズの目指す「きめ細かい和のおもてなし」と通じるものがある。
プレザージュが機械式を採用している点も良かった。30年ほど前、探検船に乗船勤務の経験のある髙橋さんは、マイナス40度の南極で、電池式のダイバーズウオッチが止まり、同僚の機械式時計は動いていたという苦い経験がある。その時から髙橋さんには「時計は機械式に限る」という思いがあった。さらに「刻々と時を刻む機械式の時計は、ゆったりと時間が流れるクルーズのイメージと親和性が高いと思ったんです」。
企画段階からすでに、セイコーは飛鳥クルーズについてよく勉強してくれていたという。「(本誌の)『クルーズシップ・オブ・ザ・イヤー』に寄せられた『美しい船体』『気品を感じる』といった読者からのコメントも参考にしていたようです」。
その後、実際にセイコーの担当チームにクルーズを体験してもらい、イメージをふくらませてもらった。
●「優雅な時を楽しむGMTを」
年が明け、セイコー側から最初のデザイン提案があった。12時の文字にはファンネルと同じ赤い二引きを配置。ダイヤルリングや時分秒針には船体のラインと同じ金色と深縹(こきはなだ・深い藍色)を選んでくれた。白い文字盤には琺瑯(ほうろう)を採用することで、通常の塗料とは異なる深みのある白が表現できた。それはまるで日差しを受けて進む美しい船体を思わせるものだった。デザインについては、最初の提案から飛鳥クルーズらしさが表現できた。
機能面では「クロノグラフ(ストップウオッチ付き)はどうか」と提案があった。だが髙橋さんは「それはまるで時間に追われるよう。むしろ、ゆったりと時間が流れる飛鳥Ⅱのイメージに合うGMTをぜひ」と提案した。クルーズを経験したセイコー側も納得し、話はスムーズに進行した。GMTは短針、長針、秒針に次ぐ4本目の針「24時間針」があり、一つの文字盤で二カ国時間が表示できる。「世界一周クルーズを運航する郵船クルーズとしてはGMTが必須」との思いは両社に共通するものだった。こうして飛鳥Ⅱコラボレーション限定モデルでは、GMT機能を搭載することが決まった。
「これまでもダイバー向けに防水機能を高めた高性能ウオッチはありましたが、クルーズをイメージしたものは珍しく、特別感がありますね」。
重くかさばらないよう文字盤は小さめに。さびにくいチタン製とすることで軽さも実現できた。ドレスアップする夜のために、付け替え用の紺色のクロコダイルバンドを付属したのは、ヨット用とは異なるクルーズならではの装いといえる。
当初予定していた海外での販売は残念ながらコロナ禍で中止となってしまったが、国内では販売前から予約が入るほど好評で、すでに完売した店舗もあるという。
髙橋さんは「これからもお客さまに納得いただけるものをつくっていきたい」と語ってくれた。