にっぽん丸30周年記念クルーズレポート
30年の“想い”を乗せて
爽やかなブルーで描かれた「30」の文字が、パッと目に飛び込んでくる。にっぽん丸の30周年記念クルーズでは、エントランスに30周年を記念したロゴと、30年をダイジェストに伝えるゆかりの写真の数々が展示してあった。おなじみのにっぽん丸コンシェルジュの牛山恵子さんが、にこやかに乗客を出迎えてくれる。「私たちもようやく30歳を過ぎましたね」なんてユーモアに満ちた会話を交わしつつ。本来は昨年に行うはずだった30周年記念クルーズだったが、コロナ禍の影響を受けて今年に延期されていた。乗船前には2回のPCR検査を経たこともあり「満を持して」という表現がぴったりで、船内には早くも乗船できた安堵感が漂っていた。
スイート客室ではバトラーが笑顔で、「シャンパンはいかがでしょうか」。手にしているボトルにも「NIPPON MARU 30th」のロゴが刻まれている。シャルドネの聖地とも言われるコート・デ・ブランより届いたものだという。スイート客室のほかダイニングやバーでお目見えすることになったこの30周年記念シャンバーニュは、フルーティーな香りと上品な酸味で、30周年のお祝いムードに華を添えた。
客室でホッと寛いだのもの束の間、公室へと歩を進める。とにかくこのクルーズは無寄港だが、いやむしろ無寄港だからこそ、イベントが目白押しなのだ。30周年を記念したスペシャルなディナーは明日とは知りつつ、その晩の和食ディナーにも舌鼓を打って打って……。特に「土瓶蒸し~クエのお出汁~」は滋味深く、思わずため息が出る一品だった。かぼすを絞っていただけば、高級料亭にいるような気分に。「出汁」というシンプルな文字とは裏腹に、その奥深さを見せつけられた。
●ゆかりのエンターテイナーたちのエピソードトーク
そんな和の味わいの後は、落語家の古今亭菊之丞師匠が登壇するドルフィンホールへ。ステージの背後には故・柳原良平画伯が描いた大きな船体の後ろ幕が掲げられている。それは懐かしき真っ白い船体のものだった。にっぽん丸は2010年に大改装を行ってロイヤルブルーの船体になったが、それより前、「あたしが真打になったばかりの時に、にっぽん丸からいただいたものでして」と語る今亭菊之丞師匠。こんなところにもにっぽん丸が30年の間に紡いできた縁が見えてくる。
ワクチン接種など時事ネタもさりげなく組み込んだ古今亭菊之丞師匠の語りに、お腹を抱えて笑ったら、なんだか気持ちがすっきりした。不穏なニュースが少なくない現代だが、こうして皆で一斉に笑うのは、究極のデトックスなのではないだろうか。もちろん適度な距離を保ちながらの中、少しずつ日常が戻ってきて、また船に乗れたことに心が躍った。
古今亭菊之丞師匠を筆頭に、今クルーズのエンターテイナーはにっぽん丸ゆかりの人たちばかり。それだけに芸が秀でているのはもちろん、壇上でにっぽん丸とのエピソードの数々が披露され、終始温かな空気が流れていた。
La Salaの中藤節子氏は2000年の世界一周クルーズなどにも乗船、「演奏が終わった直後に『クジラが見えます』という船内放送が流れ、ドレスのまま窓際に走っていった思い出があります」というエピソードを披露してくれた。クラリネット奏者の花岡詠二氏は、「菊ちゃんとはにっぽん丸で出会ったんだよなあ」と、古今亭菊之丞師匠との出会いを語っていた。