にっぽん丸の聖なる夜
極上の食と音と空間と

●洋の華やぎと和の香り　両方を堪能する3泊4日

にっぽん丸に乗船するたびに強く思う。洋の華やぎと和の落ち着きがこれほど絶妙に調和した空間はないと。今回のクリスマスクルーズにも、和と洋両方のすばらしさがたっぷりと織り込まれている。弦楽コンサートをはじめ、落語や中西圭三氏のコンサートなど多彩なプログラムだ。しかも3泊4日と長めの行程である。これから始まるクルーズに胸を躍らせながら、夕日の中で遠ざかっていく横浜港をいつまでもデッキから眺めていた。

●富士山の絶景から始まる極上の日

翌2日目は終日航海日だ。いつもより遅い時間に目覚め、外を見ると富士山が眼前に立ちはだかっている！　慌ててカメラを持って7階のデッキへ上がり、その雄々しい姿を写真に収めた。午前中は駿河湾に停泊し、快晴のなか富士山のパノラマ風景を乗客に堪能してもらうとのこと。3泊4日ならではのゆったりとしたスケジュールがうれしい。朝食にはダイニング「春日」を選び、全面窓の向こうにある日本画のような富士山を眺めながら名物のパンケーキを頬張った。

朝食後、ラウンジ「海」でバリスタの入れるラテアートコーヒーを片手にくつろぐ。すると近くの席から「深夜まで寝ないで流れ星を見ようか」という会話が聞こえてきた。そう、このクルーズは2夜連続ふたご座流星群を船上からキャッチできる機会にも恵まれているのだ。

流れ星も待ち遠しいが、昼間のイベントも見逃せない。昼一番の春風亭勢朝氏による落語独演会は大入り満員だ。氏の語りは落語のイメージを少々塗り替えてしまうような面白さに満ちている。古典落語の演目もレパートリーとのことだが、最近の話題や巧みなシャレを取り入れた「楽屋噺」に会場は爆笑の連続。「明日の夜も落語も聞こうね」と乗客は大満足で次なる目当てへと移っていった。

船内の散策もイベント鑑賞と同じくらい心踊る体験だ。船内のそこかしこに置かれたクリスマスのデコレーションはどれも趣向がこらされ、その中から自分好みの意匠を探し当てんと歩き回るのも一興である。特に心ひかれたのは「ホライズンラウンジ」のクリスマスツリーだ。クルーが自ら小物を手作りしたとのこと。こうした心のこもったツリーを見ると、こちらの心も温かくなっていくように感じられた。

船内散策やボディケアなどを楽しんでいると、いつのまにか大海原が夕闇に染まっていた。慌ててセミフォーマルに着替え、クリスマスディナーの待つダイニング「瑞穂」へ向かう。ディナーのコンセプトは「楽しくおいしいクリスマス」とのこと、どんなコース料理となるのかわくわくする。

まずはブルゴーニュのシャルドネを飲んで食欲を増進させ、アミューズの「すっぽんの揚げパン」を味わう。サックリと揚げた衣、すっぽんのしっかりとした歯ごたえ、ねっとりとしたうま味を同時に楽しめるなんともユニークな一皿だ。クリスマスリースを思わせる盛り付けのオードブル「フォアグラのキャラメリゼ」は、まろやかなフォアグラと3種のベリーを使った甘酸っぱいソースとの相性が抜群である。国産和牛フィレ肉のローストは、しっかりとした歯ごたえ、肉汁のうま味、そして香ばしいトリュフのバランスがすばらしい。グレービーソースに含まれたしょうゆのかすかな風味を追うかのように、ナイフとフォークを動かすスピードが早まってしまう。

ディナーのコンセプトどおり、どの料理もおいしく仕上げられ、赤と緑のクリスマスカラーが目にも楽しい。しかしディナーコンセプトの真髄を感じたのは最後のデザートだ。まさか「サンタのデリエール（お尻）」が出てくるとは！　お椀のような形のつやつや光るチーズムースはなるほどお尻のように見えてくる。こうしたにっぽん丸のユーモア感覚も楽しめる極上のディナーとなった。