華やかな命名式に込められた、船への想い

華やかな命名式に込められた、船への想い
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2022.05.24
船に名前を授ける命名式は、たくさんの人たちに新しい門出を祝ってもらえる、
船の人生(!)で最も華やかな行事だ。
著名人が務めることの多かった命名者だが、最近は様子が変わりつつあるようだ。
文=宮崎由貴子

船はそれぞれ名前を持っている。製造番号ではなく名前を持つ乗り物は、世界中を見渡しても船以外に存在しない(車やオートバイは型ごとに名前は付くが、一台ずつではない)。名前をつけるということは、その個体に人格(船格?)を認めている証しであり、私たち人間にとって船がいかに特別な乗り物かということを表している。

 

船に名前を授ける「命名式」は船にとって最も華やかな式典だ。たくさんの関係者が見守るなか、船首を覆っていた幕が外され、船の名前が披露される。なかでも、命名者が船首にシャンパンボトルをぶつけて割る瞬間は、命名式のハイライトだ。ボトルは盛大に割れると縁起が良いらしい。花火の打ち上げやコンサート、ガラディナーにダンスパーティー……と夜更けまでイベントが続き、まるでお祭りのような盛り上がりを見せる。

 

シャンパンボトルを割る儀式の原点は、バイキングの時代にまでさかのぼる。かつてバイキングたちは船の進水時に奴隷や囚人、動物をいけにえとして捧げたという。中世以降には血を想起させる赤ワインのボトルを割るようになり、その習慣が世界各地に広まった。赤ワインはいつしかシャンパンに代わり、日本では日本酒を使って神主さんが祝詞をあげたり、ノルウェーではジャガイモの蒸留酒「アクアビット」が使われることもあり、こんなところにお国柄が表れる。

 

●ロイヤルファミリー登場で格調高く

 

船名に「クイーン」を冠するキュナード・ラインでは、現在の3隻はすべて英国ロイヤルファミリーが命名している。「クイーン・メリー2」(2004年)と「クイーン・エリザベス」(3代目、2010年)はエリザベス女王、「クイーン・ビクトリア」(2007年)はコーンウオール公爵夫人カミラが命名者だ。古くは1938年にエリザベス王妃(現在のエリザベス女王の母)が「クイーン・エリザベス」(初代)を命名したことにさかのぼる。2024年就航予定の「クイーン・アン」の命名者が誰になるかにも注目したい。

 

同じく英国にゆかりのあるプリンセス・クルーズも、ウエールズ公妃ダイアナ(「ロイヤル・プリンセス」初代、1984年)やケンブリッジ公爵夫人キャサリン妃(ロイヤル・プリンセス」3代目、2013年)が命名者を務め、話題になった。

 

ホーランド・アメリカ・ラインはオランダ王室とゆかりが深く、1920 年代以降、13隻もの命名者をロイヤルファミリーが務めている。今年5月にはマルグリット王女(前女王の妹)が最新船「ロッテルダム」(7代目)を命名。マルグリット王女はこれまでにも「プリンセンダム」(1972年)をはじめ4隻を命名している。

 

日本でも皇族が務めた例があり、「にっぽん丸」(3代目、1990年)は清子内親王(紀宮さま)が命名者だ(文中の敬称はいずれも命名式当時)。

 

「航海するすべての人に神のご加護を」客船誕生の瞬間、華やかなる命名式
キャサリン妃が登場したロイヤル・プリンセスの命名式。第1子出産前最後の公務として話題に
CRUISE GALLERY
「航海するすべての人に神のご加護を」客船誕生の瞬間、華やかなる命名式
キャサリン妃が登場したロイヤル・プリンセスの命名式。第1子出産前最後の公務として話題に
イタリア生まれの家族の絆 縁起を担ぐことの大切さ、命名式とそれに至る物語
MSCクルーズの命名者といえばソフィア・ローレン。オーラが違う!
CRUISE GALLERY
イタリア生まれの家族の絆 縁起を担ぐことの大切さ、命名式とそれに至る物語
MSCクルーズの命名者といえばソフィア・ローレン。オーラが違う!

●あの国民的大女優は18隻(!)も命名

 

著名な女優や人気歌手が命名者を務めるケースも多い。イタリアにルーツを持つMSCクルーズでは、イタリア出身の女優ソフィア・ローレンがすべての新造船を命名している。今年12月に就航予定の「MSCシースケープ」を命名すれば18隻目となり、一人が命名した客船の数としてはおそらく史上最多だろう。

 

女優以外にも、歌手や著名料理人などの例も。今夏には歌手のケイティ・ペリーが「ノルウェージャン・プリマ」を命名する予定。主要船社初となるレイキャビク(アイスランド)での命名式で、楽しいパフォーマンスを披露してくれるはずだ。

 

●ブランドイメージを体現、あえて「無名な人」を選ぶケースも

 

ノーベル平和賞受賞者のマララ・ユスフザイ(「セレブリティ・エッジ」)や、米体操のシモーン・バイルス選手(「セレブリティ・ビヨンド」)を任命したセレブリティ・クルーズは、女性の活躍やダイバーシティを目標に掲げており、そのイメージにぴったりの人選といえる。それほど有名ではなくとも、自然科学分野の研究者や地元政治家、旅行会社社員など、各分野で活躍する女性が選ばれるケースは増えており、各社が目指すビジョンを体現する女性が選ばれる傾向にある。

 

さらに「普通のお母さん」をセレクトしたのが、ロイヤル・カリビアン・インターナショナルだ。今年就航の「ワンダー・オブ・ザ・シーズ」の命名者を動画投稿SNSのTikTokで一般公募。船名にちなみ、「#SearchForWonderMom」(ハッシュタグ:楽しいお母さんを探せ)を付けて投稿した動画の中から、とびきり楽しい母親を命名者として選ぶというもの。ファミリー層が多いクルーズラインならではの企画といえる。

 

一方、「命名者も命名式も無し」という独自路線をいくのが、ヨットスタイルを標ぼうするポナン。命名式でなく就航式を開催し、招待客らとともに船上で祝うスタイルだ。

 

命名式にはクルーズラインごとの特色が出ておもしろい。それがどんな形であれ、新しい船の幸運を願う気持ちに変わりはない。なぜなら船はこれからも、私たちの特別な乗り物であり続けるはずだから。

 

華やかな命名式に込められた、船への想い
命名式はなく船上で就航を祝うポナン。これはこれでカッコいい
CRUISE GALLERY
華やかな命名式に込められた、船への想い
命名式はなく船上で就航を祝うポナン。これはこれでカッコいい
関連記事
TOPへ戻る
シェアアイコン