飛鳥クルーズの新造客船、船出に向けて着々と
●オンラインをフル活用した新造船プロジェクト
2021年3月に建造計画が発表された、飛鳥Ⅱに続く新造船。ラグジュアリーかつ環境に配慮した新造船は、実現へ向けて着実に準備が進められている。
そんな中、2022年6月には取締役・専務執行役員だった遠藤弘之氏が、代表取締役社長に就任した。遠藤弘之社長は以前より新造船建造のプロジェクトに携わり、主に財政的な面において実現の道筋を立てる役割を担ってきた。社長に就任してから初のインタビューで、まずその道程について尋ねると「この3年間は新造船のことにかかりきりでした。そんな中、財政的な面の目途を立てられたことは非常に大きかったです」と振り返った。
「株主であるアンカー・シップ・パートナーズは、30行近くの地方銀行からサポートを結び付けてくれました。その資金調達の方法は僕らにはない斬新な発想で、非常に驚きました」。
資金調達の目途がつき、建造を担うドイツのマイヤー ベルフト造船所との交渉を進める中では、困難も伴った。世界的に新型コロナウイルスの感染が広がっていったのだ。海外との往来に制限があるなかで、日本とドイツとの共同作業は、オンラインをフル活用したものとなったという。
「面と向かって顔を合わせられないため、細かいニュアンスが伝わりにくいという苦労はありました。一方でオンラインならではの良さもありました。日時の調整がつけば毎日のようにミーティングを開催することができたのです」。
●来日時には温泉施設での文化交流も
そして国際間の往来が徐々に再開される中、2022年5月にはドイツからこの新造船プロジェクトに関わるチーム総勢21人が来日を果たした。初めてのリアルの場での大規模なミーティングに加え、飛鳥Ⅱを実際に訪船して視察したり、また日本郵船歴史博物館を案内して同社の歴史を説明したりしたという。
「それから温泉施設にも案内しました。新造船には露天風呂を設置予定ですが、やはり外国人の方は風呂というと『スパ』や『プール』をイメージするようです。日本人にとっての風呂がどのようなものか理解してもらいたいという狙いがありました。実際に皆さん入られて、とても喜んでいました」。
●新造船にはベストな選択を
この新造船プロジェクトの中心を担う人物の一人が、新造船準備室の歳森幸恵室長だ。進捗について聞いたところ、現在は新造船の設計を詰めている段階で、そのために実施したふたつの試験について教えてくれた。
「先日実施したのが、ウインドトンネルテストというものです。これは現状の船型デザインを踏襲した模型を作り、さまざまな速さや向きの風をその船体模型に当て、船上で風が強く吹く場所がないかを計測します。また実際に模型の煙突から煙を出し、その煙が滞留する場所がないかも確認します」。
日本語で風洞試験と言い換えられるものだが、これにより安全性を確保するのはもちろん、乗客が不快な思いをする場所がないかも観察する。
「もうひとつは水槽試験と言われるものです。これは水槽の中で実際に船体模型を走らせてみて、計画通りの推進性能が得られているか、操船性は確保されているかなどを確認する試験になります。この試験はこれまでも数回に渡り行われ、その都度、船型やプロペラ形状の改善が図られており、計画値を上回る性能が得られる見込みです」。
新しい客船には大いなる可能性がある。その中からベストなものを選択するために、日々さまざまな調整がなされているのだ。