CRUISEforSDGs――クルーズがつくる新しい未来
再び気軽に旅行に行けるようになったとき、私たちはこれまでと同じような旅行を求めるだろうか。
これからの時代、私たちの心にフィットするクルーズとは?
未来に向けた各クルーズラインの取り組みを、「環境」「寄港地」「人」の切り口から見てみたい。
青い空を守るために
最近、さまざまなメディアで目にする「SDGs」(サステナブル・デベロップメント・ゴールズの頭文字)は、世界が抱えるさまざまな問題を解決し、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標だ。 ……と聞くと、なんだか遠い世界の話のようだが、具体的な行動は私たちの生活に深く関わる事柄ばかり。もちろんクルーズも例外ではない。
欧米の主要船社が加盟するクルーズライン国際協会(CLIA)は、2050年までに二酸化炭素排出量を実質ゼロにする「ネットゼロ・カーボン・クルーズ」を追求すると発表したばかり。さらに2035年までにすべての客船を陸上電源対応とし、港ではエンジンを停止して二酸化炭素のさらなる排出削減を目指すとしている。
業界をけん引するカーニバル・コーポレーション、ロイヤル・カリビアン・グループ(RCL)、ノルウェージャンクルーズライン・ホールディングスの3大グループは、それぞれ目標達成に向けたロードマップを策定。SDGsに強い関心を寄せる欧米の消費者のニーズに応えている。
クルーズの舞台は世界の海。温暖化による気候変動を止めなければ、クルーズを楽しむどころではなくなってしまう。私たちクルーズファンにとっても「持続可能なクルーズ」の実現は切実な問題だ。
■港ではエンジン停止、横浜港でも計画中の「陸電」
港の電源供給設備を利用することで停泊中のガス排出量を減らす「陸上電源」(陸電)。プリンセス・クルーズでは、環境基準の厳しいアラスカで2001年に始まったころから対応し始め、約20年かけて全船で対応。最近はマイアミやガルベストン、国内では横浜などで整備計画が進む。陸電設備のある港では、2035年までに全船舶に陸電対応が求められる。郵船クルーズの新造船は10年前倒しで陸電に対応予定だ。
■続々就航中! LNG燃料客船
いま海運業界でブームになっているのが、液化天然ガス(LNG)を燃料とする船舶。排気中の窒素酸化物を約8割も削減でき、硫黄酸化物にいたってはほぼゼロまで削減できる。 クルーズ業界ではアイーダ・クルーズを含むコスタ・グループが先行しており、すでに4隻がデビュー済み。今年はディズニーやカーニバル、MSCクルーズで就航計画がある。郵船クルーズの新造船は国内初のLNG燃料クルーズ客船として注目が集まる。
■LNG燃料クルーズ船、就航予定
<2018年>
アイーダ・ノバ (アイーダ・クルーズ)
<2019年>
コスタ・スメラルダ(コスタクルーズ)
<2021年>
アイオナ(P&Oクルーズ)、マルディ・グラ(カーニバル・クルーズ・ライン)、アイーダ・コスマ(アイーダ・クルーズ)、ル・コマンダン・シャルコー(ポナン)、コスタ トスカーナ(コスタクルーズ)
<2022年>
ディズニー・ウィッシュ(ディズニー・クルーズライン)、カーニバル・セレブレーション(カーニバル・クルーズ・ライン)、アルビア(P&Oクルーズ)、MSCワールドエウローパ(MSCクルーズ)
<2023年>
MSCエウリビア(MSCクルーズ)、シルバー・ノバ(シルバーシー・クルーズ)、カーニバル・ジュビリー(カーニバル・クルーズ・ライン)、アイコン・オブ・ザ・シーズ(RCI)、船名未定(プリンセス・クルーズ)
<2024年>
船名未定(MSCクルーズ)、船名未定(ディズニー・クルーズライン)
<2025年>
船名未定(プリンセス・クルーズ)、船名未定(RCI)、船名未定(MSCクルーズ)、船名未定(ディズニー・クルーズライン)、船名未定(郵船クルーズ)
<2026年>
船名未定(RCI)
<2027年>
船名未定(MSCクルーズ)
■急速に進化する、大容量バッテリー船
LNGと並行して注目を集めるのが、大容量バッテリーを活用した船舶だ。2019年就航の「ロアール・アムンセン」(フッティルーテン)は大容量バッテリーを搭載して二酸化炭素を20パーセント削減。エンジンを完全に停止(!)して30分間航行できる。2021年就航「ル・コマンダン・シャルコー」(ポナン)と2023年就航予定の「シルバー・ノバ」(シルバーシー・クルーズ)はLNGとバッテリーのハイブリッドだ。
■いつか乗ってみたい! 水素で動く「夢の客船」
残念ながらLNGでは二酸化炭素をゼロにはできない。ゼロエミッション実現のためには、水素など次世代燃料への移行が不可欠だ。水素系燃料船は早ければ2020年代後半には登場するとみられている。MSCクルーズはイタリアの造船会社フィンカンティエリなどと共同で、水素燃料客船の開発や水素の供給システムを検討している。RCLは2035年までに温室効果ガスを出さない「ゼロ・エミッション・シップ」の就航を目指す。「夢の客船」に乗れる日は近い!?