【最新船は、こんなにもすごい!】ロアール・アムンセン
世界で初めて、電気とLNGを燃料とするグリーンシップが
環境先進国のノルウェーでデビュー。
楽しいだけではない、学べる、心地よいクルーズを行う。
●安全性と環境への配慮を最大限に重視した客船
「かっこいい!」――月並みな言葉だが、港に停泊している「ロアール・アムンセン」を見て、まずそう感じた。黒・赤・白のトリコロールカラーの船体は、2万トンというサイズながら、海面に垂直におりた特徴的な船首のせいか、圧倒的な存在感を放っている。船は女性名詞、女性として語られることが多いが、ことロアール・アムンセンに関しては男性的なものを感じた。まるでこのまま、戦闘ロボットに変身するのではないかと思うような……!
フッティルーテンはもともとノルウェー沿岸で沿岸急行船を運航する船会社で、125年以上の歴史を誇る老舗だ。「世界で最も美しい航路」という異名を持つこのルートを軸に、近年探検船の運航にも注力。北極圏で培ったノウハウを武器に、多数の南極・北極圏など極地への探検(エクスペディション)クルーズを実施している。
そんなフッティルーテンの満を持しての新造船がこのロアール・アムンセンだ。ノルウェーの偉大な探検家の名前を冠した客船は、極地を航行するだけに、そのコンセプトは非常に明解。第一に極地での安全運航に適したスペックを搭載していること、第二に環境に優しい、持続可能性を追求した客船であること。そして第三に、極地でも快適で楽しく、しかも知的好奇心をも満たす船であること。
第一の安全航行に関して言えば、同船はアイスクラスPC6、1Aスーパーという客船では最高のランクを取得している。360度氷に包まれた極地は絶景だが、一方で周囲に頼るものの少ない極限の地でもある。時に揺れたり、吹雪になったりすることもあるだろう。そんななかで、このハイスペックな客船に乗っていることは、乗客にとって最大の安心感のはずだ。
●好奇心と向きあえる空間で学べる、考えるクルーズを
その安全性は、同社の探検クルーズにおける重要アイテム、高性能ゴムボートのゾディアックにも表れている。探検船が一般的に備えているゾディアックだが、ロアール・アムンセンのものは特注。極地クルーズ歴30年のクルーズコーディネーター山本真里氏いわく、カスタマイズされたボートは乗り心地が良く、安定感があるとのこと。同社の探検クルーズでは毎日午前、午後と上陸やゾディアックでの遊覧プログラムが無料で楽しめるが、海面に近いゾディアックにおける乗り心地の良さは、ストレスがないばかりか、安心して乗れるという一面もある。
●ハードとソフト、両面で環境への配慮を徹底する
第二の環境に優しい、持続可能性を追求した客船であることは、同船で行われる講座でもしばしば強調されていた。講師を担当するのが、同船を知り尽くしたエンジニアであるというのも興味深い。いわく、「ロアール・アムンセンは世界で初めて燃料と電池のハイブリッド方式を採用した客船です。世界で最も新しく、最も環境に優しい客船を運航しているのは、われわれの誇りでもあります」。
このハイブリッド方式により、ロアール・アムンセンはエンジンを完全に停止した状態で、電気だけで30分間航行できる。そのうえ同サイズの客船に比べて燃料消費量と二酸化炭素の排出量を各20パーセント削減している。
海にストンと垂直に落ちるような印象の船首も、環境に配慮したゆえん。この船首の形により波の抵抗を少なくし、燃料消費量の削減に役立っている。ちなみに同船は11月に世界で初めて南極で命名式を実施。伝統的な命名式ではシャンパンボトルを船体に打ち付けて割るが、この式典では氷の塊を船首で割った。環境に優しく、そして力強い船首なのだ。
こうした環境への配慮は、船のハード面だけでなくソフト面にも表れていた。フッティルーテンは他社に先駆け、昨年春からプラスチックの使用を全面的にやめている。ストローは紙製、客室にはペットボトルの代わりにお土産にもなるアルミ製のボトルが。ダイニングに並ぶバターやジャムも包み紙はなく、すべて小皿に盛られていた。それらに不便さを感じさせることなく、むしろスタイリッシュに見せているのが、さすが環境先進国ノルウェーの客船だとうなってしまった。
●センス良い空間で学生気分に戻って学ぶ
まずはそんなスペックに目がいく同船だが、実際に足を踏み入れると、7層吹き抜けのLEDが船内を貫き、インテリアはとことんスタイリッシュ。決して豪華絢爛ではないが、おしゃれでセンスの良い空間で、居心地が良い。
一般的な客船とは異なるのが、船内の中心エリアにエクスペディション・クルーズに欠かせない、アカデミックなスペースが広がっていること。サイエンスセンターには顕微鏡が並び、どこか学校の理科室を彷彿とさせる。大人になってからのぞく顕微鏡の中の世界は、学生の頃とはまた違った学びがあった。ここでは水中ドローンを操縦し、船内で水中の世界を探検することもできる。南極で目の前をペンギンが泳いでいった!などということも、夢ではないのだ。