【最新船は、こんなにもすごい!】スピリット・オブ・ディスカバリー
往年の名船を運航してきたサガが、初の新造船を就航させた。
英国人好みの本格派客船は、その随所に伝統が漂い、
個性と上質さが際立っている。
英国船社サガクルーズから初の新造船「スピリットオブディスカバリー」が就航した。総トン数5万8250トン、乗客定員約1 0 0 0人。ほどよいサイズで、コンセプトも明確だ。最先端の流行を追いかけて数年で古びて見える船は造らない。目指したのはロンドンの一流ブティックホテルの風格。
これまで同社は「サガルビー」(元ビスタフィヨルド)、「サガサファイア」(元オイローパ)といった超有名船を英国人好みに上手く改装し、乗客に愛されてきた。
しかし時代は変わった。新造船スピリットオブディスカバリーは全室バルコニー付き客室だ。50歳以上限定という規約は変わらず、しかも全体の15パーセントはシングル客室となっている。船内のアートワークは英国の芸術家の作品を散りばめた。モダンというよりはクラシック、それが大人の船旅にはよく似合う。
客室の出来栄えがいい。シングル客室でも20平方メートルを確保。クローゼットも大きめで、紅茶と小さな湯沸かしポットも完備、ロングクルーズ仕様になっている。
船内に奇をてらった、または斬新な試みはない。しかし一日一日過ごすにつれ、じわっとこの船の良さが伝わってくる。
●タキシード率の高いダイニング 英国客船の伝統薫る船内
船は安定性が良く、少々強風の日でも揺れることがなかった。バーやラウンジでは、お酒を注文しなくとも、紅茶を頼んで友人と談笑にふけることもできる。
懐かしい名前のバーが復活していた。その名はサウスケープバー。名船サガルビーにあったバーだ。飴色のクラシックなソファと少し高めのバーカウンター。ここで食前の一杯をゆったりと楽しみたい。
レストランはバリエーションが増えている。ステーキハウス、アジア料理、シーフード料理と3つの特別レストランが作られた。いずれもカバーチャージは無料。
しかし私が一番気に入ったのはメイン・ダイニングだ。濃いブラウンとワインレッドを基調としたクラシックなダイニングは、往年の名船の風格を感じる。ディナー時にはパリッとのりのきいたナプキンをさっと膝の上にあてがわれ、大きめのディナーメニューを渡され、グラスにワインが注がれる。
サガの食はかなりぜいたくだ。とある夜のディナー、1000人の船客全員にシャトーブリアンのステーキが振る舞われた。メイン・ダイニングでフォアグラ、キャビア、ロブスターも出る。私はサガをラグジュアリー船とは言わないが、この食の水準は、十分ラグジュアリー船のレベルだ。
英国船にはインドアのプールが備わっているものだ。スピリットオブディスカバリーのインドアプールは、サウナとサーマルスイートもあって、なんと無料で利用できる。運動不足解消とリラクゼーションに活用できる。
乗客の99パーセントが英国人だ。しかもすてきな方が多く、言ってみれば客層が良い。笑顔があふれ、穏やかで上品で、だけど会話にウィットがあって。たとえ片言の英単語の羅列であっても十分楽しい会話ができる。日中会うとラフな服装の方が、フォーマルナイトの夜はタキシードでバシッと決めてくる。その着こなしは、おしゃれというよりむしろ英国人の習慣だ。こうした乗客たちが、船内の上品な雰囲気を作り上げている。
英国船こそ船旅の王道ではないだろうか。本格派の客船スピリットオブディスカバリーに乗船して、そう感じた。
〈SHIP DATA〉
船名:スピリットオブディスカバリー(サガクルーズ)
就航:2019年7月/総トン数:5万8250トン
全長:236メートル/全幅:31メートル
乗客定員:999人/乗組員数:505人