【フェリー旅レポート】
「きそ」一人旅で知る、太平洋フェリーの魅力
(この記事はCRUISE2018年2月号に掲載したものです。)
ぶらり一人旅が大好きである。太平洋フェリーで行く2泊3日の船旅(苫小牧〜仙台〜名古屋)は日数も航路も理想的で、以前から気になっていた。きらめく太平洋をひた走るフェリーは非日常性にあふれ、旅の舞台として最高だ。
頬を切りつけるような冷涼な空気の中、苫小牧港に停泊する真っ白な船「きそ」を見上げた。均整の取れた美しい船体を見て、船内施設とサービスもかくやとワクワクしながら乗船する。
この船のテーマは「南太平洋のしらべ」。3層吹き抜けのエントランスホールは「光壁」とライトの効果でキラキラと輝き、南太平洋の砂金のような太陽光を思わせる。赤と青のコントラストを効かせたインテリアが暖かな印象で、体感温度が2、3度上がるようだ。山田成宏船長が「うわあと声が上がるほど華やかで、時代を越えてもその印象が変わらないデザインにしたのですよ」と語ってくれた。パーサーの香月真一さんを筆頭にクルーたちが並んで迎えてくれるのもうれしい。にぎやかなツアー団体も流れ込み、ますます船内が明るくなった。
「きそ」を知る1日目
19時の出航に先立って夕食を楽しむため、レストラン「タヒチ」へ向かう。シェフの中村卓司さんとクルーの朗らかな出迎えのおかげで、疲れた体に明かりがともるようだ。1人でも大家族でも満足できるバイキングでは、乗下船地である北海道、宮城、愛知の食材を生かした料理が並ぶ。各地の地酒に太平洋フェリーのオリジナルワインなど、アルコールメニュー(別料金)も魅力的である。
正直驚いたのはオリジナルワインのおいしさ。フランスはローヌ地方のワイン(AOCリュベロン、赤)は、しっかりしたアルコールとフルーティーな味わいで不思議にどの料理にもマッチする。飲み切れないなら持ち帰って部屋やパブリックスペースで味わうこともできるし、これでボトル一本1540円とは良心的である。美味な食事とワインで心身ともに大満足。売店に寄り、家飲み用にオリジナルワインを赤白両方購入した。
夕食後はパブリックスペースでくつろぐ。11タイプある客室から乗客が思い思いに集まり、スタンド「マーメイドクラブ」や売店で購入した軽食や飲み物を片手に談笑している。一人旅の人、夫婦、家族など形態はさまざまだ。苫小牧で仕入れたお弁当を囲む子連れ家族もほほ笑ましい。夏は外国人観光客も多く、さらににぎやかになるとのこと。
「きそ」は生活航路を走る輸送手段としても活躍するため、長年の利用客も多い。クルーを家族のように思い、取れ立ての野菜を手土産に乗船したり、新人クルーにアドバイスしたりする人もいるらしい。なんとも人情味あふれるエピソードで、「きそ」の地域に根付いた思いやりのサービスが推し量られる。
一人旅もいいが、家族一緒ならもっと楽しめただろうと思う。隣り合わせた一人旅の乗客が、「ゆっくり読書でもと思ったけど、なにかにつけて手持ち無沙汰でね。結局家族のことが頭に浮かぶね」と漏らしていた。まったく同感だ。
しばらくの間、北海道限定ビールを飲みつつ周囲を眺める。それにしても、ポール・ゴーギャンの描くタヒチの世界を思わせるインテリアだ。コートを着込んだ乗客が行き交う船外とは対照的に、赤、青、黄色、自然光が一体となり南太平洋の暖かさが見事に表現されている。目を引いたのは肘掛けの台形がユニークな一人掛けチェア。各パーツの長さを少しの誤差も許さず仕上げたこだわりのチェアとのこと、座り心地が良くてついついロビーに長居してしまった。