にっぽん丸、モーリシャスへ!
2年10カ月ぶりの国際クルーズの再開を祝う
横浜大さん橋国際ターミナルには、多くの人場見送りに詰めかけた。徐々にオレンジ色の夕日が横浜のベイエリアを染めていく。
停泊するにっぽん丸は、満船飾を掲げて「モーリシャスプレシャスクルーズ」の出航を待っていた。このクルーズが意味することは、にっぽん丸がしばし南洋に向けてクルーズに出かけること……だけではない。実に2年10カ月ぶりとなる、国際クルーズの再開第1号なのだ。
●国内も国際も再開はにっぽん丸から
日本におけるコロナ禍の発端となったのも、ここ横浜港だった。2020年2月初旬から、多くの報道陣が横浜港に詰めかけた。そこから日本はもとより、世界中でクルーズ船がピタリと運航を停止。レジャークルーズの歴史の中で、ここまで多くのクルーズ船が運航されなかった時期はかつてなかっただろう。世界中の大きな港の沖で、多くのクルーズ船が、なすすべもなく停泊していた。
しかし5月には欧州で小型船から運航が再開。その後も各船社何度か運航停止を挟んだものの、夏から秋にかけて欧州では徐々にクルーズ船の運航が再開された。それでも感染が拡大した米国では2020年内は再開されず、2021年夏からようやく運航再開にこぎつけた。
日本での運航再開は2020年の10月から、先陣を切ったのは、やはりにっぽん丸だった。2020年10月26日にチャータークルーズを実施、11月2日からは自主クルーズを行った。その後も感染状況を受けて何度か運航を停止したものの、他の2船「飛鳥Ⅱ」「ぱしふぃっく びいなす」とともに、今月まで国内クルーズのみで運航を続けてきた。
●万難を排し、この日を迎える
国際クルーズ、しかも48日間にわたるロングクルーズの実施には、多くのハードルがあった。特にクルーズ中に感染症が発生した場合の対応については、多くの議論が重ねられた。船社各社が会員に名を連ねる日本外航客船協会(JOPA)は11月に「外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン 第8版」を公表。このガイドラインは国際クルーズに対応したもので、これにより国際クルーズの再開がより具体化した。
特筆すべきは、現在のものが「第8版」であることだ。ガイドラインの初版を制定したのは2020年5月。背景には国土交通省からJOPAに対し、自主的な感染防止のための取組みを進めるよう協力要請があった。それを受けてガイドラインを制定してからこれまで、状況に合わせて8回も改定を重ねている。業界内の絶え間ない議論があって、この日を迎えることができたのだ。
「本当に行けるのかと不安になったけど、きっと行けるはずと思って準備を進めていきました」とは、とある乗客の弁。まさに「万難を排し」、12月15日、にっぽん丸は横浜港から出航の時間を待っていた。
●クルーズ再興の記念すべき日
久々に長いクルーズを前に「にっぽん丸」の姿は、どこか高揚しているようにも見えた。デッキには多くの乗客が集まり、日が落ちるにつれ、船内の明かりが色濃くなっていく。
出航セレモニーに先立ち、赤いカーペットが敷かれたステージでMITCH’S All Star Bandの演奏が行われた。軽快なブラスバンドのリズムは、やはり港によく似合う。旅行会社ゆたか倶楽部のマスコットキャラクター「ゆたかクル蔵」も登場。音楽に合わせて踊る姿に、場が和んだ。
出航セレモニーが開会した。横浜市港湾局みなと賑わい振興部の市川素久部長は「本格的なクルーズの再興、記念すべき日を迎えられました。おめでとうございます」と祝った。商船三井客船の上野友督代表取締役社長の「待ちに待ったモーリシャスクルーズ、多くの人の支援によってこの日を迎えられ、社員ならびに乗組員一度うれしく思います」という言葉に、多くの人が頷いた。
にっぽん丸はこの後南下し、シンガポールでのクリスマス、赤道直下でのお正月、そして「インド洋の貴婦人」と称されるモーリシャスでの3泊4日の寄港を行う。大さん橋のデッキは徐々に冷え込んできたが、見送られる側の乗客は、これから一日一日と薄着になっていくのだろう。
最後に二宮悟志船長が船上から語った。「48日間のクルーズは感染症対策を実施して、安心・安全なクルーズを徹底していく。お客さまの一生の思い出に残るよう、乗組員一同、精一杯がんばります。1月31日には美しい思い出とともに元気に戻ってきます。いってきます!」。
久々の華やかな出航シーンに胸が熱くなった。「いってらっしゃい」、「無事のお帰りを待っています」。ターミナルで見送った多くの人が、そんな思いを抱いていたはずだ。日本におけるクルーズの再興――そのステージがまたひとつ上がった日だった。