春を訪ねる「にっぽん丸」でクルーズデビュー
●良い意味で裏切られた初クルーズ旅行
甘美な響きのあるクルーズ旅行。「いつかは」と憧れる一方で、「今すぐでなくともいい」という考えが少なからずあった。改めて顧みると、「シニアに向けた旅のイメージがある」「団体行動が苦手」「贅沢な旅は憧れるが気後れする」と、40代女性としておよそ恥ずかしいものもあるが、自身の持つイメージを自覚した。
乗船してみると、それらのイメージは面白いくらいにことごとく良い意味で裏切られた。下船した今では、「こんなに楽しいのなら、もっと早く乗っておけば良かった」とさえ感じている。
●万全に迎えられる安心感と、“身軽”という贅沢
うららかな春の陽気に恵まれた出港日。東京国際クルーズターミナルで、PCR検査の結果を待つ間、船上で一緒に過ごす乗客たちを観察する。春休み期間ということもあり、カップルや友人同士、家族連れなど予想外に若い客層も多い。乗船後には男女ともに一人客の姿もちらほら見かけた。皆一様に高揚感に包まれた表情を浮かべており、これから始まる旅への期待が自然と高まる。
乗船手続きは実に簡素かつスムーズで、身分証明書による本人確認のみだった。乗船し、客室へ向かうとターミナルで預けたスーツケースがすでに到着していた。ちなみに帰りも部屋の前へ荷物を置けば、クルーが船外まで運び出してくれる。往復ともに宅配便を利用すれば、自宅から荷物に煩わされることなく身ひとつで乗船することも可能だ。また、下船までパッキングの憂鬱から解放されるのもクルーズ旅の美点だろう。
身軽さは船内も同様だった。乗船証が部屋の鍵と財布を兼ねたIDカードのため、船内ではそれ一枚を携帯すればいい。実際、船内では手ぶらか小さなバッグの人がほとんどだった。乗船証は食事や喫茶、イベント時とたびたび掲示する機会があるため首から下げている人も多く、素敵なパスケースを装着する人からは船旅上級者の余裕があふれているように感じた。
●退屈する暇がない
今回のクルーズは東京を出港し、翌日午前中に和歌山港に入港。その夜に港を出て、3日目は三重県の海上で英虞湾遊覧に立ち寄り、4日目の朝に東京へ戻るという旅程。1日目と3日目のほぼ丸2日を船上で過ごすため、時間を持て余すかもしれないと読みかけの文庫本を持参したが、まったくの杞憂だった。3日目の海の状況により、英虞湾遊覧は残念ながら中止となり船内時間を予定より増やしたが、文庫本は読み終えることなく旅を終えた。
早朝の「おはよう体操」から夜遅くのカジノやナイトシアターまで、船内では常にどこかでイベントが開催されている。散策中にスポーツデッキで行われていたゲーム「シャッフルボード」にふらりと参加してみると、これがなかなか楽しい。アテンドするクルーが参加者を上手に盛り上げてくれるからだろう。幼児からシニアまでが集った即席のチーム戦は白熱し、笑いの絶えない時間をしばし過ごした。
イベントは、船室へ届く船内新聞に詳細が記されており、新聞を見ながら次に何をしようかと考える時間も楽しい。全員が必ず参加しなくてはいけないのは避難訓練だけだ。それ以外は食事もイベントも含め、参加するもしないも個人の自由。ある種の気楽さがあり、 気の向くままに船上時間を過ごした。
●毎晩ライブに通うリッチなナイトライフ
ドルフィンホールでは毎晩ライブが行われた。初日の夜は「JAZZ VOYAGEアコースティックコンサート」が開催。ホールへ一歩足を踏み入れると、豪奢なシャンデリアに絨毯という重厚感ある劇場らしい華やかな内装に気分が上がる。ステージを見下ろす2階席も含め、客席はすでに多くの人で埋まっていた。
冒頭には、仲田敬一船長らが登壇。出港直後に潮を吹きながらダイブするクジラを目撃したという話を披露し会場をどよめかせるも、この日はエイプリルフールであることを付け加え笑いを誘った。しかし、最後には「嘘のような本当の話」であったことを明かし、再び会場を沸かせた。
その後、カントリーシンガーの坂本愛江さんが登場。コンサートは「Country Road」や「Save The Last Dance For Me」といった世代を超えて愛される名曲を中心に編成。生演奏の音色に、坂本さんの春の日差しのような温かな歌声が重なると、客席が一気に惹き込まれるのを感じた。おなじみのナンバーにたゆたうように身をまかせ、極上の陶酔感で満たされていった。