5類になって変わったクルーズ船のガイドライン
新たなクルーズ様式は

5類になって変わったクルーズ船のガイドライン 新たなクルーズ様式は
CRUISE STORY
クルーズストーリー
2023.05.12
5月8日から、新型コロナウイルスが5類に分類された。この感染症の影響を大きく受けたクルーズ業界も、
大きな変革の時を迎えている。5月8日以降のクルーズにおけるガイドラインの変更点をまとめた。
文=CRUISE編集部
5類移行直前、GW前4月28日の横浜港には、国内で初めて5隻同時着岸した。ようやく港に本来のにぎわいが戻ってきた。写真=田村浩章

●5月8日以降、ガイドラインの廃止&見直し

 

陸上の感染症対策よりはるかに厳格な対策をとっていたクルーズ業界。それが5月8日以降、大きく緩和の方向に舵をきっている。

 

コロナ禍でクルーズ船運航に関しては、複数のガイドラインが定められた。そのひとつが日本外航客船協会による「外航クルーズ船事業者の新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン」だが、それはこのたび廃止された。ただし個社毎に感染対策マニュアルを整備しており、さらに海上運送法施行規則で定められている安全管理規程により引き続き感染対策を継続するとしている。

 

また日本港湾協会が定めた「クルーズ船が寄港する旅客ターミナル等における感染拡大予防ガイドライン」も、同様にこのたび廃止されている。

 

日本国際クルーズ協議会(JICC)は「国際クルーズ運航のための感染拡大予防ガイドライン」を策定し、これまで国際クルーズ船はこれにのっとって運航されてきた。こちらは5月8日以降もガイドライン自体は継続だが、規定の一部が見直しされている。

●ガイドラインでは乗船前検査が不要に、乗客&船会社の負担減

 

乗客ならびに船会社にとってもっとも大きな変化が、乗船前の検査だろう。2023年2月27日第2版では、乗船に当たっては乗船前3日以内PCRまたは抗原定性陰性の結果を提示等の規定がなされていた。

 

それが2023年5月8日第3版からは、「新型コロナウイルス感染症が疑われる症状(発熱等)がある乗客は、乗船前に自己検査を行うことを推奨」と見直されている。

 

この見直し以前は、発熱等の体調不良がまったくない健康な人でも、事前やターミナルでの検査が必要だった。そのために時にはターミナルで数時間も待機する時間も必要で、仕方ないと思いつつ、ストレスを覚えた乗客もいたはずだ。陸上ではそこまでしている宿泊・観光施設は皆無ななか、クルーズ船だけが……という思いを持った人もいるだろう。

 

日本船は検査のためにホテルなどを借り切って、時にエンターテイナーによるミニコンサートなどを開催するなどしていたこともあった。そもそも乗客全員の検査にはコストがかかるうえ、こうした運用自体も船会社にとっては負担だったはずだ。

 

乗客にとっても船会社にとっても、事前検査から解放されるストレスは大きい。

 

実際このガイドラインの見直しを受けて、船会社各社も自社ガイドラインを変更している。ただし船会社によって規定は微妙に異なる。日本発着クルーズを実施する「ダイヤモンド・プリンセス」や「MSCベリッシマ」は、5類移行以後、事前PCR検査は求めないとしている。日本船では飛鳥Ⅱも同様に、5月12日出発クルーズ以降、事前PCR検査は不要となった。さらに飛鳥Ⅱでは2023年8月19日出発クルーズまで、発熱等の症状を理由にクルーズ乗船を取消しする場合、医師による診断書あるいは、通院が確認できる書類のご提出を条件として、所定の取消料は不要という措置をとっている。

 

一方、「にっぽん丸」は、当面の間、乗船当日の自宅出発前に、船会社指定の抗原検査の実施を求めている。「陰性」を確認の上、乗船受付にて検査結果画像を提出してからの乗船となる。万一検査で陽性になった場合は、飛鳥Ⅱ同様、クルーズの取消料は免除される 。

 

今後もこうした対応は各船会社に委ねられることになる。感染状況により各社ごとにガイドラインを変更する可能性もあるため、今後乗船の予定がある人は、船会社や旅行会社からの事前案内を注視したい。

船社はこうしたホールやホテルの宴会場を借り、乗船前の乗客にPCR検査を行っていた

●ワクチン接種は推奨に、マスクは状況に応じた判断で

 

ワクチン接種に関しても、見直しがされている。これまでは「全乗組員の3回接種の完了及び乗客の95パーセント以上が2回接種の1次予防接種を受ける。さらに、ブースター接種を強く推奨等」という規定があった。それが5月8日以降は「乗客及び乗組員の初回接種(1・2回目)と最新のブースター接種を推奨等」と変化している。ワクチン接種はあくまで「推奨」と緩和された。

 

これまでの規定では、ワクチン未接種の人は、規定の95パーセントの残り、すなわち5パーセントに入らなければ乗船できなかった。体質等でワクチン接種を受けられない人にとっては、気になる規定だったはずだが、それが今回見直されたのは朗報だろう。

 

実際、先に挙げた日本発着クルーズを行う外国船ならびに飛鳥Ⅱ、にっぽん丸でもすでにワクチン接種証明は求めていない。ただしこれも船会社によって規定が異なるため、乗船予定がある人はワクチン接種証明を持参したり、もし未接種の人は念のため事前に船会社や旅行会社に確認するなどしたい。

 

船内イベントに関しては、これまでは「イベントではマスク着用を推奨、大声を出すことがないよう促す等」の規定があった。それが5月8日以降、「イベント特有のリスクを考慮し、必要に応じて追加的予防策を実施」と船会社に判断を委ねられるようになった。

 

マスクに関しては、陸上同様、船上でも今なお着用している人は少なくない。船会社によっては、多くの人が集まるイベントではマスクの着用を呼び掛けることもある。マスク着用の判断は状況に応じて……という状況は、しばし続きそうだ。

●感染者が出ても、クルーズ中止の可能性は低く

 

また感染者が出た場合の対応についても、大きな見直しが行われている。これまでは「感染者は7日間、濃厚接触者は5日間の隔離が原則/全ての乗客・乗員の健康状態を確認し、感染者及び濃厚接触者の活動場所の特定と消毒を実施。感染者の発生を検疫等に通報」という規定があった。

 

それが5月8日は「新型コロナウイルス感染症の検査陽性者は、5日間を目安に自室から出ることを控える。やむを得ず自室から出る時には、人混みは避け、マスクを着用するよう呼びかける」と見直しされている。

 

すなわち感染者の隔離期間が7日から5日に短縮され、「全ての乗客・乗員の健康状態を確認し、感染者及び濃厚接触者の活動場所の特定と消毒を実施」という項目が省かれている。

 

以前はひとたび陽性者が出たことで、乗客は全員自室に待機し、検査しなければならない……という事態がしばしば起こったが、今後はそのような事態が起きる可能性は少なくなりそうだ。

 

さらにもし船内で感染が広がった場合についても規定の見直しがされている。

 

以前は運航警戒基準として「過去7日間の感染者の累計割合に基づき運航警戒レベル(Tier1-3)を設定し、レベルに応じた対応策を実施/10パーセント以上となるTier3で、運航を短縮」という数値が設けられていた。

 

これも5月8日からは「船内で感染者が増加した場合に備えて、追加措置を明記したプロトコルを整備することが望ましく、新型コロナウイルス感染拡大を抑制して管理するための、船舶及び陸上側の対策を記述する」とあくまで船会社の判断に委ねられている。

 

今後の感染状況にもよるが、感染拡大によってクルーズ中に運航が中止される可能性は、これまでよりぐっと下がったといえよう。

写真のダイヤモンド・プリンセスほか、多くの外国客船が日本に来航し、順調に航海を重ねている

●嵐を抜けたクルーズ船。より安心・安全な場に

 

そもそもクルーズの世界はこれまで、陸上のどの施設よりも厳格な感染症対策を実施してきた。過去には「クルーズ船は感染が広まりやすい」という報道も一部あったが、それは決して事実ではない。

 

クルーズは乗客・乗員が一隻に乗り合わせて一定期間を過ごすことで、「感染状況が追跡しやすい」環境であるだけだ。これが例えば多くの人が出入りする観光施設やホテル、レストランなどでもし感染が広まったとしても、そもそも行動履歴を追うことは難しい。

 

規定は見直されたが、それはクルーズ船における感染症対策がずさんになるという意味ではない。むしろコロナ禍の3年、嵐のような日々を耐えてきたクルーズ船たちは、見えない感染症というものに対し英知をつけ、より安全・安心に旅できる場となっている。

 

日本をとりまく国際クルーズ船は、ようやく長い長い嵐を抜けたのだ。

 

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