いよいよ楽しさフル稼働!「きそ」で航く旅の新章
約25種類の夕食バイキング
仙台港フェリーターミナルから「きそ」に乗船。ターミナルビルの待合室でちょうど下船するグループとすれ違った。ここから東北観光へ向かうらしく、みんな高揚感いっぱいの笑顔だ。誰にとっても、久々の旅だろう。やっとまた、こんなフェリー旅が楽しめるときがきたのだと思うと、ワクワクが止まらない。
乗客を迎えてくれるのは、3層吹き抜けのエントランスホール。船の時間へ誘うように続く階段、白く輝く「光壁」が美しい。船内は「太平洋のしらべ」というテーマどおり、海や島々のリゾートをイメージさせる色彩やモチーフ、調度品が上質な開放感をもたらす。新章を迎える旅の弾むココロにもピッタリで、うれしくなる。


■洋上の夜を彩る食&ショー
夕食はレストラン「タヒチ」のバイキング。太平洋フェリーはバイキングのおいしさでも定評がある。「オードブルからデザートまで、約25種類。名古屋~苫小牧の2泊乗船される方のために、重複しないメニューでお迎えします」と高橋幸人シェフ。この日は、「名古屋めしフェア」と銘打った期間限定メニューもあり。愛知県ブランドである知多三元豚のローストポークは、和風おろしソースの横に「シェフおすすめ!」と書き添えたオレンジソースが。両方かけて食べ比べて……「おおっ、オレンジソース、合う!」。こんな試みと発見もバイキングの楽しさだろう。ご飯ものコーナーには、カレーや、赤だしうどん、海老天まぶしご飯などが並び、全部をトレイに並べている猛者も見かけた。生ビールやワイン、日本酒、焼酎など、アルコール類も揃っている。





カフェスタンド「マーメイド」の夜間営業時限定「太平洋フェリーの牛たんカレーライス」も知る人ぞ知る人気。名古屋~苫小牧就航50周年記念の期間限定メニューだが、好評で延長検討中という。
夜のラウンジショーも新章へ
20時30分、シアターラウンジ「サザンクロス」で今宵の音楽ショーが開演。この日はキーボードとギターのデュオ「ボンパジャン」が登場。一時期休止していたショーが復活、その第2夜だった(不定期上演)。いま話題の朝ドラのテーマソングで始まり、「ここに戻ってこられて感無量です」というトークに客席から「おかえりなさい!」と声がかかって、ラウンジ全体が一気に和む。サックスの名曲、『荒城の月』など、音楽と楽しいトークを交えた約45分間のショー。最前列で拍手を送っていた女性たちは、神戸在住のグループで名古屋~苫小牧に乗船。「2晩通ったけど、曲もお話も違うし、昨日より今日がさらに良くなってたわ。ただ乗っているより、こんなショーがあるとグンと楽しいわね」とニコニコ。出演アーティストにとっても、最新の曲や新たなチャレンジなど、工夫を盛り込んで臨むステージなのだ。ショーのあとにはシアターとして映画の上映タイムも待っている。


■新しい旅を五感で満喫
「船内はほぼ通常営業になり、お客さまの期待度はグンと高まっていると感じます。久しぶりの旅行こそ、特別な思い出になる船旅をお楽しみいただきたいですね」と旅客営業部の荒井美智子さん。「長距離を移動しながら船上時間を楽しめるように」という太平洋フェリーのコンセプトは、ここ数年の状況を乗り越え、いま新章に入った。エントランスロビーに用意された制服・制帽を身に着けての記念撮影など、「戻ってきた」風景もある。その愛しさに気づくのも、いまだからこそだ。客室から出て家族や友人と和やかに共有する船上のひとときは、五感を癒やし、満たしてくれる。








青森沖を航行中の早朝は、デッキに出て海や函館方面を眺める人、大浴場を利用する人が船内を行きかう。パブリックスペースにこだわりの椅子が多いのも「きそ」の特長で、海が見える窓際席や、テレビモニターが見やすい席などで思い思いの過ごし方ができる自由さがいい。
苫小牧港到着前、ロビーで談笑するグループは、「お仲間の車で、北海道を回るの。宿もちょっと贅沢よ。久しぶりの旅行だものいいでしょ?」。ですよねえ、とこちらも笑顔に。旅に出る張り合いは、きっと心の元気や感動をくれる。その張り合いを取り戻して。それぞれの旅の新章を始めたい。


船長とスタッフが語る これからの太平洋フェリー

船長 山田成宏(なるひろ)さん
太平洋フェリーの「いしかり」「きそ」「きたかみ」3船は操船感覚にもそれぞれ違う個性があります。そのなかで「きそ」は、私が計画段階から建造に関わった船でもあります。操船してみると、レスポンスが鋭く、くせがなく、こちらが思ったように“停まる”のが「きそ」の大きな強みですね。船内も、あえて原色を大胆に配し、お客さまに楽しんでもらいたいというデザイナーの一途な想いが詰まった内装になっています。
私は、1991年入社、2007年1月に現在の船長職を拝命しました。お客さまとクルーの安全、楽しさ、定期ダイヤ、すべてに責任がある「船長」という立場は、ズシリと重みがあります。クルーは仲間であり、全員の尊厳を重んじています。そして、何事も他人事ではなく、「自分の事」として考える人であってほしい。たとえば、お誕生日旅行などのお客さまに船長としてお祝いカードを書くことがありますが、それは「あれ? 何かお祝いの乾杯かな」「記念の旅行らしいぞ」と気づくクルーがいてこそのことです。
この3年間の社会情勢下で、われわれは「船を止めない」ために必死でした。ただ、体調不良となれば仕事に穴が開くのは平常から同じで、自己管理が基本です。趣味の筋トレも私にとってはいまや自己管理の一環ですね。これからも乗務員一同、常に万全なコンディションでお客さまを迎えたいと思っています。いまや家に居ながらにして欲しいものを手にいれられる時代ですが、旅の体験と感動だけは実際に出かけなくては得られません。一期一会の時間を太平洋を航く船上でゆったり味わってみてはいかがでしょう。

機関長 佐藤勝紀(まさき)さん
「きそ」は長い歴史と実績がある在来型の大型カーフェリーです。在来型の「2機2軸2舵」で、各舷単独でも運転できる安全性があり、変わらないものの良さを感じます。フェリーの機関部は、少人数で広い守備範囲を受け持っています。2機2軸の「きそ」は主機もポンプ等の推進補機も一般の貨物船の約2倍。さらに旅客スペースの空調や電気設備、そのすべての運転と整備に機関部5人であたっています。定期航路のダイヤを守りながら整備を徹底し、安全運航を確保して快適な船旅を提供するのが使命であり、醍醐味ですね。年1回のドック入り時は船に同行し、工事立ち合いや検査に必要な操作も行います。
機関部は狭い場所での共同作業が多いので、コミュニケーションとチームワークが大事です。毎朝始業前ミーティングも行いながら、この3年間は乗組員本人もその家族も、全員が責任ある行動をとり、一丸となって感染症対策を心がけました。
私は山形県鶴岡市出身で、父は漁師。外航船にも乗りましたが、クルーズフェリーの先駆けである初代「きそ」に一目惚れして、太平洋フェリーに入社。以来約32年、その間3年ほどの陸上勤務中、この2代目「きそ」の建造に山田成宏船長とともに携わりました。実は、この取材を受けている本日が機関長研修の最終日で、今年度は弊社3船を順番に配乗予定です。
今年3月、宮城県から北海道札幌市に家族で移住し、休日は道内探訪に夢中です。行き先各地の旬の食も楽しむようにしています。キャンプも大好き。いよいよ本格化する観光シーズン、マイカーに遊び道具を積み込んで、ぜひ太平洋フェリーでお出かけください。

パーサー 坂本勝彦さん
「きそ」は「南太平洋のしらべ」というコンセプト通り南国風の色鮮やかな装飾が特長です。接客部門である事務部はアテンダント12名、ギャレー6名とフェリーとしては多いと思います。接客サービスを重視するなかでも、特に大事なのは、「すべてはお客さまのため」という姿勢でしょう。効率最優先と相反することでも、まずお客さま第一に考える。それは「聞くこと」から始まります。お褒めの言葉は聞きやすいですが、ときにはお叱りや、少々理不尽に思えるクレームもいただきます。どんなときも、それをお聞きする。スタッフには、積極的・自発的に小さなことにも気づき、マニュアルにとらわれない行動でホスピタリティあるサービスを提供できるよう、成長してほしいと思っています。安心・安全で笑顔の思い出になる船旅のお手伝いが使命です。
私は1992年入社で、2012年からパーサー職です。デスクに座っているのは苦手な体質で(笑)、さりげなく船内を歩いて回って、お声掛けもしていきます。
約3年前の緊急事態宣言発令後、グループツアーがなくなるなど旅客数が激減したものの、貨物は若干の減少で済みました。長距離フェリーの「輸送」という役割が船を支えてくれたのです。昨年は状況も落ち着きを取り戻し、上期だけでコロナ前の約7~8割まで回復、今年は大型連休から多くのお客さまが乗船されました。名古屋~仙台~苫小牧の航路は、夏は張り出した高気圧が絶好の航海日和をもたらします。デッキで日光浴やバードウオッチングをされるお客さまも見かけます。太平洋フェリーで、記憶に残る、よい船旅をみなさんにぜひ楽しんでいただければと思います。

シェフ 高橋幸人さん
太平洋フェリーの3船のなかでも「きそ」は、レストランの面積が最も大きく、お客さまそれぞれにお気に入りの席を“発見”していただけるでしょう。実は厨房も広いので、作業には動線を考えますね。
フェリーはいろいろな世代、目的のお客さまを迎えるので、バイキング料理も多彩さが大事です。緊急事態宣言下の一時期はバイキングでなく定食スタイルをとり、スタッフは慣れない盛り付けにも追われました。やっと完全形のバイキングを楽しんでいただけるようになり、うれしい限りです。いま、レストランでは名古屋・仙台・苫小牧、3つの寄港地のご当地メニューを約4カ月ずつの期間限定フェアで提供しています。ご当地メニューの味付けにもこだわっていますので、食を通して寄港地にいっそう親しみをもっていただけたらと思います。
私は宮城県石巻出身で、父は貨物船のコック。現職についたのは自然な流れだった気がします。1994年入社し、初乗船したのは初代「きそ」でした。新人はまず飯炊きからでしたが、当時はいまのような炊飯器ではなく、船のボイラーの蒸気を使い大鍋で炊いていたんです。タイマーもないし、寝坊したらレストランの営業時間に間に合わないので、毎日真剣勝負でしたね。
そうそう、弊社では定期航路以外に小笠原や沖縄をまわる年末年始の特別クルーズも実施していました。食材も平常よりたくさん必要ですが、そこはフェリーなので車両デッキに保冷トラックごと積載しちゃう(笑)。これから、観光全体が活気を取り戻して、定期航路でも特別クルーズでも、おいしい食事と船上の時間をさらに楽しんでいただける時代になるといいですね。






日程:2023年5月15日(月)~16日(火)
コース:仙台~苫小牧
船名:きそ(太平洋フェリー)
総トン数:1万5795トン 乗客定員:768人