日本初のミュージッククルーズ乗船レポート【前編】
衝撃の連続だった……!
Mighty Crown主催レゲエクルーズ
日本初のミュージッククルーズ「Far East Reggae Cruise」に乗船した。
17万トンの大型客船でのクルーズは、「日本初」尽くし、イベント尽くしの6日間。
レゲエをテーマに行われたこのクルーズの模様を前・後編2回にわたって紹介しよう。
船内に足を踏み入れた瞬間、「あれ?」と思った。きらびやかな船内で知られる「MSCベリッシマ」だが、どこか南国のビーチリゾートのような、ほんわかとした空気が漂っているのだ。
すぐにその理由に気づいた。船内のパブリックエリア、廊下や通路といったところまで、ほんのりとレゲエミュージックが流れているのだ。
多くの乗客がきっと、クルーズ中に船内のBGMに気に留めることは少ないだろう。ちなみにその後乗船したMSCベリッシマの自主クルーズでは、船内BGMは特に流れていなかった。
けれどもこのクルーズは違った。Mighty Crown主催、日本初のミュージッククルーズとしてMSCベリッシマを全船チャーターして行われる「Far East Reggae Cruise」では、船内BGMをレゲエにすることまでこだわっていた。
「神は細部に宿る」と言ったりするが、こうした細部まで「レゲエ」というテーマに沿った気遣いがなされていることに、乗船早々膝を打つ。さすがMighty Crown! 心地よい音に体を揺らしながら荷物を部屋に運び入れながら、これから始まる6日間の音楽漬けのクルーズへの期待が高まった。
●初クルーズの若年層、ファミリーも多数
実際、このレゲエクルーズはのっけから衝撃の連続だった。
そもそも乗客層が日本における通常のクルーズとまったく違う。乗客の年齢層が断然若いのだ。平均年齢は30代~40代ぐらいだろうか。腰まで届きそうなドレッドヘアの人、全身にタトゥーが入った若者、リゾートウェアに身を包んだギャル風の女子グループなど、個性豊かな面々だ。
さらには「未来をになう子供たちからはお金をとらない」というMighty Crownの方針により、今クルーズは大人と同室の12歳以下の子ども料金は無料。そのせいか、視界に子供が入らないのは難しいほど、船内には子供の姿が目立った。
みな乗船早々、船内散策をしながら、「やばくない?」とこの大型客船のスケールに圧倒されている。ピカピカ輝くスワロフスキーの階段がしつらえられたアトリウムで記念撮影を行ったり、LEDが張りめぐらされた6デッキのガレリアで記念撮影を行ったり。
クルーズ中に多くの乗客に出会ったが、そのほとんどがクルーズ自体が初めてだという。クルーズというと日本ではまだまだ「リタイアした人の楽しみ」というイメージが少なくない。それを打破すべく日本のクルーズ業界関係者の多くが「若年層を取り込みたい」と熱望しているが、そんななか、まったく新しいミュージッククルーズというアプローチでそれを成し遂げているMighty Crownのすごさを早々に目の当たりにした。
●早々に訪れる、感動のハイライト
感動のハイライトは早くもやってきた。
予定の出航時間をやや過ぎた17時10分すぎ、MSCベリッシマがゆっくりと横浜港大黒ふ頭ターミナルを離れていく。「かけたかった曲があったんだ!」とマイクを握りつつ、Mighty CrownのSAMI-Tが流したのは、レゲエといえばこれと言うほどの名曲、ボブ・マーリーの「ONE LOVE」。乗客皆が大海原に進みゆくMSCベリッシマ船上で、傾きつつある太陽に向かってゆっくりと手をふりながら熱唱している姿は、まるで映画のワンシーンのような美しさだった。
●誰もが感謝に包まれた、出航初日の夜
多くのクルーズ船は出航時の「セイルアウェイパーティー」が終わると、ふーっとひと息つくかのようにリラックスタイムが始まる。とはいえこれはレゲエクルーズ、息つく暇はない。
そもそも客室に届けられていたレゲエクルーズのパンフレットを見て驚いた。初日から毎夜、プールデッキに設けられたステージでライブ三昧。それがだいたい23時~24時ごろまで続き、その後はMSCベリッシマの屋内メインストリートである6デッキの「ガレリア」かデッキ18の「スカイラウンジ」に河岸を移し、深夜から朝までのパーティーが続く。出航翌日からの2日間は航海日だが、その後は済州島、熊本と寄港地も入ってくる。「一体いつ寝ればいいんだ……!?」、スケジュールを眺めながら、そんなうれしい悲鳴をあげた。
初日からプールデッキは大盛り上がりだった。ステージの両サイドに積み上げられたスピーカーからは、船上とは思えない太い音が響いている。このあたりの音の作りこみは、Mighty Crownの真骨頂なのかもしれない。
ステージの前にプールがあり、そこに浮かびながら音楽を楽しめるものいい。しかもDJブースの最前列まで水着でスイスイと泳げて行けてしまう。最前列をとりたかったら、始まる前からじっと地蔵のように待機する必要がある陸のフェスとは違い、ここはスペースコンシャスなクルーズ船なのだ。
初日のウキウキ感は、乗客だけでなくステージにも詰まっていた。Guan Chai、Rueed、YOYO-C、RYO the SKYWALKER、Spinna B-ILLと初日から豪華メンツだが、アーティスト全員がこのMSCベリッシマの大きさに触れ、そしてそれをチャーターして日本初のミュージッククルーズを企画したMighty Crownへの謝辞を述べていた。
しかもこなれたアーティストばかり、即興で歌詞を変え、「MSCベリッシマ」「レゲエクルーズ」「Mighty Crown」といったフレーズを盛り込み、レゲエのリズムに乗せていく。現場に来ているからこそ味わえる音の数々。
アーティストも乗客も高揚感と感謝に包まれた出航初日の夜だった。
●時計が進むにつれ定着する「住民」感
Far East Reggae Cruiseは出航翌日から2日間終日航海日が続いたが、結果としてこのスケジュールは理想的だった。
出航当日は全員が迷える子羊のようにキョロキョロと船内を歩きまわっていたが、翌日、翌々日と時計が進むにつれて、皆この大型客船に慣れ、「住民」らしさが板についていく。
それにしても盛りだくさんだ。2日目は13時からプールデッキでのパーティーが始まった。燦々と照る太陽のもと、プールに入りながら、デッキに寝そべりながら、皆音楽に身をゆだねている。
老若男女問わず、そして体の太い細いを問わず、多くの人が皆、水着やビーチウエアだ。船上だからか、はたまたレゲエクルーズだからか、皆あっけらかんとビキニや短パンを着こなしている。乗客のほとんどは日本人だが、なんだかそのサウンドと相まって、カリブ海にいるような気がした。
見渡せば、肌に艶やかにタトゥーをした乗客も少なくない。船上でタトゥーはひとつのファッションだ。外国船になるとタトゥーが入っているクルーも多い。ただし船上ではなんのデメリットもないタトゥーも、日本の陸のプールや温泉では制限があることも。日本のタトゥー愛好家にとって、クルーズ船上は惜しみなく肌とタトゥーをさらせる絶好の場なのだという、新たな発見もあった。
●アーティストと乗客の距離がじりじりと縮まる
2日目のステージはANARCHY、ZENDAMAN、J-REXXX、Jumbo Maatch&Takafin、Boxer Kid、そしてRHYMESTERというタイムテーブルだ。ANARCHYとRHYMESTERに加えて、HOST MCがZeebraとあり、「このクルーズはヒップホップ好きにもたまらないね」と、居合わせた乗客の一人と語り合った。
Zeebraもステージ上で語っていたが、レゲエとヒップホップは「兄弟のようなもの」。特に分け隔てなく聞いているオーディエンスもきっと少なくないだろう。ANARCHYもMighty Crownとの縁を語っていて、日本におけるミュージックシーンの交流が垣間見えたのも興味深かった。ヒップホップでもロックでもアニソンでも、こうした音楽をテーマにしたクルーズがどんどん増えればいいのに! と思いつつ。
このレゲエクルーズの最年少出演者、ジャマイカ在住のZENDAMANは、新世代らしいフレッシュなステージを届けた。多くの観客が次世代にこのレゲエクルーズが紡がれていく瞬間を胸に刻んだのではないだろうか。
アゲ上手なJ-REXXXは、乗客の手を上に上にあげさせるステージを展開。クルーズに先立ってMighty Crownが横浜で行った「横浜レゲエ祭」では、自身のヒット曲『アミシャツ』を歌う際に、ドキュメンタリー制作で密着しているabema TVのディレクターに仕込みでアミシャツを着せて観客を盛り上げていた。果たしてこのレゲエクルーズでは……とワクワクしていたら、なんと登場したのはアミシャツ姿のSAMI-T&息子! 手の込んだ仕込みに加え、サプライズのバースデーソングまであり、インパクトのあるステージとなった。
この日もステージ上でのMCは、MSCベリッシマとクルーズについて触れるシーンが多々あった。RHYMESTERの宇多丸はMCで「いつものフェスとは違うよね、俺ら普通にビュッフェに行っちゃってるからね」と語り、観客の笑いを誘う。
実際、このクルーズでは船内で観客とアーティストと遭遇するシーンが頻発していた。動線が普通のフェスやライブ会場と違うというのもあるだろう。さらにはアーティストもクルーズ船に興味があるせいか、ステージ以外でも船上をウロウロしていたり、はたまた喫煙コーナーでのんびり一服していたりする。
だからクルーズ中あちこちで、アーティストと観客が写真を撮る輪ができていた。歓声が上がりつつも、なんだか皆、友人同士のようにリラックスして写真に収まっている。ここは陸から切り離されたクルーズ船、アーティストと乗客の距離が、じりじりと縮まっていく。
●日付がかわってからヒートアップ! ロンドン・シアターの熱い夜
とにかくイベント満載のレゲエクルーズだが、次なるハイライトが2日目のSOUND CLASHだった。場所は船内のロンドン・シアター、開催時刻は深夜の23時。