伝統的な儀式が多数!
新造客船誕生までの道のり
客船がデビューするまでの伝統的な儀式の流れを追っていこう。
先日、マイヤー・ベルフト造船所にて、郵船クルーズの新造客船「飛鳥Ⅲ」の「スチール・カッティング」が実施された。
この「スチール・カッティング」とは何か。これは日本語では鋼材切断式とも呼ばれるもので、クルーズ船の建造の開始を祝う意味を込めて、船体の最初の鋼材が切られる儀式だ。
そもそもクルーズ船が新造される際には、さまざまな儀式がある。その多くが今後の安全航海を祈って伝統的に行われてきたものだ。以下にクルーズ船建造までの一般的な儀式を紹介していこう。
最初の「スチール・カッティング」が行われた後に実施されるのが、キール・レイイングと呼ばれる儀式だ。これは船のキールが最初に設置される儀式で、船が実際の形状を持ち始めることを意味する。キールは日本語では竜骨(りゅうこつ)ともいう。動物に例えれば背骨で、クルーズ船では最も重要な耐荷重構造だ。
儀式では船台の上に船のキールが設置され、ここで「コイン・セレモニー」が行われることが多い。これは特別なコインをキールに設置する儀式だ。
キール・レイイングが終わると、建造はいよいよ本格的になる。エンジンやプロペラなどが取り付けられ、内部の構造も造られていく。
●進水式に引き渡し式
その次が船が水上に浮かぶ「進水式」という儀式だ。日本では日本語の「進水式」の方が一般的だが、おそらくこれにはフェリーで進水式を見学するツアーなどが行われる背景もあるのだろう。英語では「ローンチング・セレモニー」と呼ばれる。
進水式では小さな船の場合、支綱と呼ばれるロープを切ることでトリガーが外れ、船は海に向かって滑り出す。一方、大型のクルーズ客船では進水時はドックに注水して船を浮かせるスタイルが一般的だ。ちなみに飛鳥Ⅲが建造されているドイツのマイヤー・ベルフト造船所はエムス川沿いにあり、進水式は「川に浮かぶ」式となる。
進水式が終わったあと、船では艤装や内装が行われ、その後に性能試験を行って船会社へ引き渡しとなる。このタイミングで造船所と船会社が「引き渡し式」を行うことも多い。式典ではもともと船に掲げていた造船所の国の旗が下げられ、船籍国の旗が下げられる旗替えの儀式もよく行われる。
●「ハレの日」の命名式
クルーズ船の場合、近年は引き渡しを終えた後、営業航海を行う前に「命名式」を行うことが多い(フェリーなどでは進水式と同じ日に行うことも)。命名式は英語で洗礼式の意味を持つ「クリスチャニング・セレモニー」と呼ばれることもある、重要かつ神聖な、「ハレの日」の儀式だ。
命名式での「名づけ親」役は英語ではゴッドマザーと呼ばれ、伝統的には女性がその役を務めた。近年クルーズ船では有名人を起用したり、また公募したりと、それ自体を一大イベントとして広報活動にも役立てている。
命名式では、命名者が船首にシャンパンボトルをぶつけて割る瞬間がハイライトだ。シャンパンボトルを割る儀式の原点は、バイキングの時代にまでさかのぼる。かつてバイキングたちは船の進水時に奴隷や囚人、動物をいけにえとして捧げたという。中世以降には血を想起させる赤ワインのボトルを割るようになり、それがいつしかシャンパンに代わった。
こうした多くの儀式を経て、新造客船はいよいよ大海原に繰り出していくのだ。