大自然の恵みと匠の技、宝づくしの熊本をゆく―八代港―
八代の伝統文化、阿蘇の大自然やこの国宝の石橋などをクルーズ拠点の「くまモンポート八代」から訪ね歩こう。
―八代―
もし出港がサンセットの頃なら、とりわけ幸運だ。 天草などの島々を抱く美しい八代海が、素晴らしい夕景を見せてくれる。そんな八代にある「くまモンポート八代」は、最大22万トン級客船が入港可能なクルーズ専用港。2024年は「スペクトラム・オブ・ザ・シーズ」などが寄港予定だ。
入出港するクルーズ船や極上の夕陽は、八代港が目前のレストラン「イル ファーロ」でも楽しめる。味わえるのは近くの魚市場から仕入れる新鮮魚介など、地元素材による創作イタリアン。すべて八代の名陶、「高田(八代)焼」で供されるのも魅力だ。
高田焼宗家が「上野窯」。豊前から移り、「八代城」の城主となった細川忠興がお抱えとし、殿さまにつき従って八代に移った。ちなみに今に残る石垣と内堀の威容が、かつての壮大なスケールを思わせる「八代城跡」は街のランドマークだ。
高田焼は素地に文様を彫り込み、白い陶土を埋め込む象がんが特徴。上野窯のギャラリーでは、地元の土を用いた多様な作品の、精妙な文様や磁器を思わせるツヤ感にまず引きつけられる。
もともと藩の贈答品を作っていたという同窯には、藩の「指図書」(注文書)も伝わる。時代が進むにつれ、象がんの文様は繊細で優美に。そうして長い間に育まれてきた、器がまとう気品が高田焼の真骨頂だ。
上野窯のある日奈久温泉は、殿さまも訪れる藩営の湯処があった、県最古の湯。時が止まったかのようにのんびりとした風情の街で、目を引くのが木造3階建の豪壮な宿、「金波楼」だ。日帰り湯で明治創業の風格にひたるのもいい。
八代はまた、日本一のい草生産地でもある。丈夫で吸湿性に優れ、消臭作用もあるい草は畳表でおなじみだが、新しいモノ創りも展開されている。特に「井上産業」による、い草を細縄にして生み出す、多彩で鮮やかな色合いの品々が素敵だ。例えば「い草縄のれん」は、九州新幹線などの間仕切りとして使われている。
「い草しめ縄づくり体験」も実施していて、トライすると、手でねじって縄にする、い草のスベスベな感触がたまらなく心地よい。香りもさわやかで八代の自然の恵み、い草の魅力をあらためて実感する。