にっぽん丸でかなう
寄港地ツアー付き、ぶらり気まま旅
■知っているようで知らない土地へ
無料ツアーで出会う新たな発見
「名古屋発着のクルーズを楽しみにしていたんですよ」。旅の間、何人もの方からこの言葉を聞いた。今回の旅は、名古屋港でにっぽん丸に乗船して、房総半島の木更津、伊豆半島の下田に寄港するという3泊4日の旅。太平洋岸に沿う航路で行くコースだけに、船からの景色も楽しみだ。
チェックインして、デッキで出航前の音楽演奏を楽しんだ後、7階のリドテラスでゴディバのショコリキサーをいただいた。リドではビールの無料サービスも開始し、飲んでいる方がちらほら。
初日のディナー後は、4階ドルフィンホールで、「青木隆治エンタテイメントショー」を鑑賞した。幅広いものまねで人気のボイスアーティストのライブとあって、観客席は始まる前からわいわいと熱気モードだ。
青木隆治さんは白いスーツで颯爽と登場。1970年代から最近までの年代順ヒットソングのメドレーで始まった。布施明、渡辺真知子、尾崎豊、グレイなどなど、男性歌手、女性歌手の声を使い分けて、次々と歌っていく。一気に何十人のものまねをしたのだろう。途中でギターを弾いて、松山千春や福山雅治などの弾き語りものまねも。歌の合間の話も面白く、笑いあり、感動あり。コミュニケーション上手に会場を盛り上げる。「名古屋から来た方いますか?」という彼の問いに、多くの方が手を挙げていた。
どうやってあんなに多彩な声を出せるのだろうと考えていると、青木さんがのどぼとけを上下に動かして見せながら、高音や低音の出し方を説明。観客席から感嘆の声が上がっていた。
後半は美空ひばりの不死鳥ドレス風の衣装で登場し、ラストは『川の流れのように』を熱唱。その姿は、まさに美空ひばりの魂が降臨したかのようで圧巻だった。
アンコールでは青木さんが16歳で『NHKのど自慢』で優勝したときの曲、前川清の『花の時・愛の時』を歌い、想いが込められた歌声に感動した。一流のアーティストでありエンターテイナーのライブをたっぷり堪能した夜だった。
■成田山参詣と木更津めぐり
翌朝、デッキに出ると、朝焼けの中、船は東京湾内の房総半島近くを進んでいた。木更津港に近づくにつれ、右手に工場地帯が見えてきた。真っ白い煙を上げる高い煙突や幾何学的な骨組みの建物が目の前に延々と続き、とてもシュールな感じの光景だ。工場好きの人にはきっとたまらないことだろう。後ろには富士山の姿も見えた。横浜港近くで見る姿よりも大きく見えるのが新鮮だ。
木更津港からは無料ツアーがあり、成田山へ行く午前中コースに参加した。道中、バスの中で会話した二人のご婦人は名古屋在住。クルーズ船によく乗るが、名古屋発着が少ないので今回は便利でよかったわ、とのこと。自分で木更津や成田山、下田にわざわざ行くのは遠いからと、初の訪問が楽しみのご様子だった。
成田山新勝寺は、毎年約300万人が初詣に訪れる真言宗の大きなお寺で、江戸時代に歌舞伎役者の市川團十郎が子宝祈願して以来、代々、縁があることでも有名だ。ここでは自由行動。敷地が広いのでやや急ぎめに、不動明王が祭られた大本堂にお参りした後、隣の釈迦堂で釈迦如来像の美しい姿を拝んでから、平和の大塔を見たり、木々が豊かな成田山公園を散歩した。そして、外に出て賑やかな参道の坂道を少し歩く。成田名物のようかんや漬物の店を通り過ぎ、軒を連ねる鰻店が店先で焼く鰻の匂いに引かれつつも、駐車場で待つバスに戻った。
船の出港は22時30分とゆっくり時間があるので、午後はタクシーで港周辺に足を延ばした。船内で観光案内をしていた木更津市観光振興課の方によると、中の島大橋の近くに、童謡『証誠寺の狸囃子』のモデルになったお寺があるという。
お寺の名前は「證誠寺」。街にあるが、敷地には草木が茂り、お堂近くに狸塚や童謡が彫られた記念碑があった。きっと昔はこの一帯も自然が多くタヌキが遊びに来たのだろうか。
その晩は、港で木更津市による花火のもてなしがあり、ひとときの冬の花火を楽しんだ。