飛鳥Ⅲへの道【シリーズ第4弾】
着々と建造が進む飛鳥Ⅲ、芸術品の数々も完成へ
マイヤー造船所で建造されている「飛鳥Ⅲ」の取材の際、新造船準備室長である歳森幸恵さんを見かけた時のことは強く印象に残っている。普段とは一変した作業しやすい服装に、手にはメジャーを持っていた。目の前に置かれた家具の数々を前に、体をかがめて細かいサイズを測ったり、素材の手触りを確かめたり。その姿はオフィスにいるときの印象とは変わって、どこか「職人」のようだった。
新造船準備室長である歳森さんの役割は、プロジェクトリーダー。事前の計画で決まっていることを造船所やデザイン会社が忠実に実行しているかチェックしたり、船内の家具について決定したりという業務を担っている。
「飛鳥Ⅲの船内には、8300点もの家具が入る予定で、そのすべてが特注品です。家具は実際に見てみて、例えば壁の色と合うのかとか、日本人には高すぎないかなどをチェックします。もし高すぎると判断した場合、ちょうどよい高さに調整するようオーダーします。家具はそれぞれの手触りもチェックしますし、ミリ単位の確認するような作業も多くあります」。
家具や資材はグレードの高いものにこだわっており、例えばバーカウンターはイタリアの最高級ブランドのものを採用した。飛鳥Ⅲが完成した際には、そうした細部へのこだわりも感じたい。
「個人的には『エムスガーデン』が注目です。おしゃれで開放感のあるビュッフェレストランです。ビスタラウンジには激動期を含めた日本郵船の貨客船の歴史を感じられるエリアを設ける予定で、歴史を感じながらお酒を飲むのにぴったりの空間になりそうです」。
■さまざまな選択肢を提案する
マイヤー造船所で着々と建造が進む「飛鳥Ⅲ」だが、その工程は順調だという。
「今後2024年12月から2 0 2 5年4月にかけて、内装の最終確認作業に入ります。図面どおりに施工されているのか、指定した素材を使っているかなどをチェックしていきます。その後、北海で試験航海を行います。それが終わるとさまざまな試運転が始まります。ここまでは計画通り、とても順調に進んでいます」。
就航は2025年と、近づいてきた。いち早く乗りたいと楽しみにしている人も多いだろう。
「飛鳥Ⅲは例えばダイニングやサービス、過ごし方など、これまでより選択肢が増えます。より自由度の高いクルーズを提供していくことで、自分で選ぶ楽しみが生まれます。例えば個人旅行を好むような方には、ぴったりの船になるのではないでしょうか。一方で既存の飛鳥Ⅱも運航を続けていきます。違ったスタイルの2隻、飛鳥Ⅱと飛鳥Ⅲ、それぞれのお好みに合った船を選んでいただけるようになると思います」。
■人と文化をつなぐ船内アート
マイヤー造船所で建造が進められている飛鳥Ⅲだが、並行して日本国内でも各種のプロジェクトが着々と進められている。そのひとつが船内に設置するアートの数々の手配だ。これらの作品の手配などを担当するのが新造船準備チームの辻田幹さんだ。
「『動く洋上の美術館』を目指し、数々のアート作品を展示します。アートコンセプトは『飛鳥』の名前の由来にもなった飛鳥時代にちなみ、『万葉集』。万葉集は当時の天皇から農民まで、東北から九州まで幅広い人の作品を収容、多様性に満ちています。飛鳥Ⅲは『つなぐ、ちから』をコンセプトにしており、多様な人と人、人とアート、人と文化をつなぐ船になれば、という思いでいます」。
実際、飛鳥Ⅲは動く洋上の美術館にふさわしい錚々たる作品が展示される予定だ。漆芸家で人間国宝の室瀬和美氏は船内アトリウムで世界最大となる高さ約9メートル×幅約3メートルという大型の漆芸作品を担当する。世界的に著名な千住博氏の作品はレストランとカフェに飾られ、初代「飛鳥」から船内壁画を描いてきた田村能里子氏の絵画も登場予定。さらに日本画家の二人、平松礼二氏と土屋禮一氏も参画する。また2024年5月から船内に飾る作品を公募したところ、大きな話題を呼んで2000点以上の作品の応募があった。
「飛鳥Ⅲへの乗船が日本のアートのすばらしさに気づいていただくきっかけになったらうれしいですね。さらに飛鳥Ⅲが日本や世界を航行することで、幅広い地域の人に日本のアートを知ってもらえたらと思っています」。
取材協力=郵船クルーズ
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