太平洋フェリー「いしかり」2泊3日フル乗船!
名古屋から仙台を経て、苫小牧までのドラマ
名古屋から太平洋フェリー「いしかり」に乗る。それも仙台を経由して苫小牧まで2泊3日フル乗船で。国内長距離フェリーは大半が1泊2日の航海。それも夕方か夜に出港し、翌朝入港というダイヤを採っている。そのなかで、太平洋フェリーは名古屋~仙台~苫小牧をすべて乗り通すと、2泊3日40時間。しかもそれは単なる長時間の移動とは一線を画する。
名古屋フェリー埠頭の2階からボーディングブリッジをくぐって船内へ向かう。実はここから船旅は始まっているといっていい。ボーディングブリッジの壁面には「太平洋フェリーの航跡 1972~現在」と題して、その歴代船の写真展示が行われていた。太平洋フェリーの前身・太平洋沿海フェリー(1972~82年)の第1船「あるかす」に始まり、第12船にして太平洋フェリー最新船「きたかみ」(2代目:2019年デビュー)まで。就航年順に並ぶ船の写真を見ていると、なんだかタイムトンネルにいるような気分になる。
写真展示が終わると、目の前には「いしかり」のエントランスロビーが広がった。ボーディングブリッジを通り抜けたのはほんの数分だったが、それは過去から現在へのタイムトラベルだったのかもしれない。
19時。「いしかり」は名古屋を出港した。闇夜に浮かび上がる名港西大橋の通過シーンを楽しんでから、レストラン「サントリーニ」へ。壁面にはブルーに染められたエーゲ海の地図がデザインされている。船はまだ伊勢湾にいるが、地図を眺めてはギリシャのエーゲ海クルーズ気分に浸りつつ、最初の晩餐をいただく。
名古屋・仙台・北海道と寄港地の旬のメニューを取り揃えたバイキングを満喫してから、ラウンジ「ミコノス」へ移動する。そこでラウンジショーを鑑賞。今夜のエンターテインメントはピアノとバイオリン演奏。サントリーニからミコノス。さながらエーゲ海ナイトクルーズの趣である。
45分のショーの後はヴァチカン・システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの『最後の審判』(のレプリカ)壁画のある大浴場へ。最後の審判に見られながら、湯船で汗を流す。出港してからまだ3時間も経っていないが、古代ギリシャからルネッサンスのイタリアへの時間旅行をさっそく楽しんだ心持ちがする。
翌朝、午前6時に目覚める。デッキに出ると陸地が見えた。昨晩、遠州灘にさしかかったところで眠ってしまったが、いまはもう千葉県の房総半島の沖にいる。そしてそれを海から見ることはめったにできない経験である。8時ごろには犬吠埼灯台(千葉県銚子市)を海上から望む。ここは関東の最東端にして、この船旅では関東の見納めとなる。
3日間の船旅では船内の朝食が2回味わえる。この日は気分を変えてレストランではなく、犬吠埼の見える左舷側のヨットクラブで、モーニングセットをいただいた。
朝食後は、プロムナードで絵皿やガラス細工などちょっとしたアート鑑賞。そしてデビューイヤーの2011年3月11日、東京・晴海ふ頭停泊時に柳原良平画伯が即興で描いた「いしかり」の壁画を見てから、ラウンジ「ミコノス」へ。9時30分から映画上映があるのだ。
船上では午前、午後そして夜と3度の上映が行われるが、朝から洋上でシネマ鑑賞というのは「非日常感」がたっぷり味わえ、デイクルーズらしい醍醐味にあふれている。映画を見終え、デッキに出たら塩屋崎が見える。そこは福島県いわき市。船はすでに東北にさしかかっている。
この船旅で唯一のランチバイキングの時間になった。この日はキーマ、黒ゴマブラック、野菜ごろごろ、すりおろし野菜と4種のカレーに、もちもちナンやタンドリーチキンなども味わえるカレーバイキングだ。本格的なカレーの数々に舌鼓を打ったのは言うまでもない。
そして14時20分。デイクルーズ最大のハイライトがやってくる。福島県相馬沖で「いしかり」と「きそ」の太平洋フェリー姉妹船が行きあうのだ。