心を満たす芸術の秋、食の秋
博多発着ウィーンスタイルクルーズ
期待に胸膨らむ老若男女の乗客を乗せ
満室で夕暮れ時の博多港を出港
「飛鳥II」の国内ショートクルーズは折々に変化に富み、クルーズ名も目的地や航路を冠したもの、夏の花火や祭り、クリスマスのような季節のイベントを据えたもの、音楽家など乗船するアーティスト名を冠したものなど、挙げればきりがない。その一方で、2泊程度で途中寄港はせずクルーズ自体を堪能するテーマクルーズも人気が高い。最近でいえば秋に催された「名誉船長・加山雄三と航く湘南・伊豆諸島」や2025年1月の「新春 グループサウンズ」、ブルーノートトーキョーとコラボする春の「JAZZ ON ASUKA II with BLUE NOTE TOKYO」などがそれ。
そんな中、今回の「博多発着 秋の連休 ウィーンスタイルクルーズ」は珍しく外国の一都市名が冠されたクルーズで、ひと味違ったユニークな旅。毎年催されるというが、果たしてどんな人たちが乗客なのか。期待と興味で向かった博多港のターミナルには老若男女、幅広い世代が集まっていた。お子さん連れのファミリーや3世代の大家族、40代あたりと思われる比較的若い層も多くいる。今航は満室だと聞いていた通り、ターミナルは多くの人で賑わっていた。
前日の天気が全国的に荒れ気味で少し心配したものの、どんより空は出港時だけ。天気予報からもほどなく晴れると想像できて、夕方の出港時はのんびりリラックス。「3連休のクルーズだし、初日の今日は慌てず乗船だけすればいい」というのも気分的にとてもラク。部屋に荷を解き、出港風景を見届けて、ディナーとプロダクションショーを楽しんだ。
中1日を存分に楽しむ3連休クルーズ
朝にはハプスブルグ家にまつわる講演も
そして翌朝。ぐっすり眠れた分だけ早起きできて朝日を撮影。予想通りの好天で、多少の風はあるものの6時30分から7デッキを歩く「ウォーク・ア・マイル」にも多くの人が参加していた。朝食後の10時からは、関田淳子(あつこ)さんによる講演『ハプスブルク家の食卓』がハリウッドシアターで催された。同名の著書もある関田さんが、オーストリアやその首都ウィーンの歴史と切っても切れないハプスブルク家を、食の観点から解説。
ハプスブルク家は10世紀から第一次世界大戦後までの実に645年もの間、ヨーロッパの広大な領土と多様な民族を治めた名家。関田さんによると、長く続いた理由は知的で政治に秀でたことや政略結婚を多用し戦争を避けたことに加え、「健康長寿で多産」も挙げられるそう。市民の平均寿命45歳に対し、王家の平均寿命は63.5歳だったとか。
「これにはきっと、食が関わっているのではないか」。関田さんはそう考えて研究に没頭したという。肉だけで最低10種類は入れるハプスブルク家伝統の「オリオスープ」など、滋養に富んだメニューは際たるもの。他にも、甘いもの好きのマリア・テレジアが好んだ「リンツァー・トルテ」、ウィーン発祥で世界で最も有名なチョコレートケーキとも言われる「ザッハートルテ」などについても、現地での写真や歴史、エピソードを交えて教えてくれた。
船は五島列島を北から西へと回り込んで長崎沖へ、というコースを取っていた。終始島並みを望む景色も飽きず、気づけば夕のショーの時間に。今宵のスペシャルステージは、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でコンサートマスターを務めたダニエル・ゲーデさん率いるウィーン・フーゴ・ヴォルフ三重奏団による演奏。
曲はベートーヴェンのピアノ三重奏曲やシューマン、飛鳥クルーズのために作られた『飛鳥ワルツ』など。ヴァイオリン、チェロ、ピアノが織りなす抑揚に富んだ伸びやかな曲の数々をインフォーマルの装いで楽しんだ。最後は客席からの拍手が鳴り止まず2度のアンコールに応えてくれた、充実のコンサートだった。