寄港地でワイナリーをめぐる楽しさ
ギリシャ船社セレスティアルで行くエーゲ海クルーズ7日間【前編】
ワイナリーをめぐりたいと願っていたので、セレスティアル・ジャーニーの乗船が決まりワクワクした。
さすがはギリシャの船、寄港地はギリシャ本土とエーゲ海の美島のワイン名産地ばかり。
それらを一筆書きでめぐり、楽に効率よくワイナリーを訪問できるチャンスが到来したのである。
初めてギリシャワインを飲んだ時その美味しさに驚き、ギリシャには約5000年ものワイン造りの歴史があると知ってまたもや驚いた。ギリシャ神話で語られるワインの逸話にも魅了され、現地でワイナリーを訪問し数多くのギリシャワインを味わいたいという思いが募るばかりだった。しかもワイナリーは景勝地や人気観光地の近くにあるか、ワイナリー自体が歴史的建造物だというケースも多い。ワインの試飲はもちろん、地元の名物を味わったりブドウ畑でピクニックしたりミュジアムで歴史や文化にふれたり・・・・・・訪問そのものが観光となり、筆者のようなワイン好きはもちろん、特にワイン好きでなくとも楽しい思い出を作れるワイナリーがたくさんあるのだ。
乗船地のアテネはギリシャ最大のワイン生産地アッティカにある。せっかくだから前泊しアテネ近郊にある2つのワイナリーを訪れることに。ギリシャ神話によるとワインの神ディオニュソスはアッティカの人々にサヴァティアノ(白ブドウ品種)の栽培とワイン造りの知恵を授けたというから興味深い。
中央ギリシャ地方アッティカ
ワインの神ディオニュソスの知恵が息づく地でワインを味わう
そこでサヴァティアノを楽しもうと創業約150年の歴史を持つギカス・ワイナリーへ。周囲にサヴァティアノの畑が広がり、正面の大きなドアにはディオニソスの像が置かれ楽園のような雰囲気が醸し出されているワイナリーだ。オイノロジスト(ワイン醸造の専門家)である現当主のアンドレアス・ギカスさんは、生産量を抑えた品質重視のワイン造りを続け国内外で高い評価を受けている。
オイノロジストのポリーナさんの説明を聞きながら様々なワインのテイスティングを楽しんだ。サヴァティアノは2種類試飲した。1つ目は柑橘系やナッツの風味が感じられるエレガントな白ワイン(SAN TOVATO)で、低温で醸して発酵させ澱と共に熟成させたものだという。2つ目はオレンジワイン(PROTASIS)として造られたもので、「野生酵母のみ使用、濾過せず亜硫酸塩の添加もしていません。おじいちゃんの手造りワインのような風味と言えますね」とポリーナさんは説明する。昔祖母に作ってもらったイチゴジュースの質感に似ているワインで、原体験が呼び起こされる感覚も楽しめる比較試飲となった。
そしてギリシャといえばレツィーナワイン(松脂の香りが付いたワイン)が有名だ。その原産地はここアッティカである。サヴァティアノで造られることが多いが、ギカス・ワイナリーではサントリーニ島原産のアシルティコ(白ブドウ品種)を使っているという。「ギカスにとってはアシルティコがベスト。アシルティコのワインと松脂の最適なバランスを取っています」とポリーナさん。アシルティコの爽やかな酸味と清々しい松脂の香りが口に広がった。こんな繊細なレツィーナワインを飲むのは初めてで驚くばかりだった。
アンドレアスさんとポリーナさんはNHKのワインに関する番組(2022年)に登場したこともある。ギリシャに古くからあるサヴァティアノなどの固有ブドウ品種は、高温や乾燥といったギリシャ特有の気候への耐性が高いため、気候変動の影響下においても優れたブドウに育つ可能性があると紹介されていた。これからもギカス・ワイナリーでギリシャ固有品種を使った美味しいワインを造り続けてほしい。アンドレアスさんから、「ワインや食の文化と哲学について、日本の皆さんと分かち合えればうれしく思います」とあたたかなメッセージをいただいた。