飛鳥Ⅲへの道【シリーズ第5弾】
公募展で選ばれた船内を彩るアート作品
受賞の華やかな一日

その日の飛鳥Ⅱ船内は、いつもと少し様相が異なっていた。クリスマスの装飾に彩られた船内で、ギャラクシーラウンジに集ったのは、晴れ着姿の人々。彼らは現在ドイツで建造中の「飛鳥Ⅲ」船内に展示されるアート公募展の受賞者で、受賞作品が飛鳥Ⅲに飾られることになっている。受賞者の顔ぶれは実に多彩で、北は北海道から南は沖縄まで、年齢も子供から大人まで幅広い。
その多彩な顔触れを前に、審査員を務めた日本画家の平松礼二氏はあいさつに立つ。「日本には数々のコンクールがあるが、今回飛鳥Ⅲの公募展には2300点もの作品が集まった。この規模のものは決して多くない。飛鳥クルーズのブランド力の表れだ」と評す。
今回の公募展で受賞・入賞した作品は合計126点。これらすべての作品は2年にわたって飛鳥Ⅲ船内に飾られ、飛鳥Ⅲとともに日本や世界を旅してめぐるという。
審査委員のひとりである洋画家の田村能里子氏は、自身の壁画作品が初代「飛鳥」、そして「飛鳥Ⅱ」を彩ったことに触れながら、「絵を描くことで私自身、旅ができた」とキャリアを振り返る。「当時はそこまでアートに注目される機会は多くなく、これだけの作品が集まったことに時代の変化を感じて驚いている」とも語った。
グランプリを受賞したのは、『夜へと誘う』と題された木村直広氏の作品。雲をテーマにした作品を前に、審査員である日本画家の土屋禮一氏は「雲を見て励まされていた」という自身の幼少期を振り返りながら、「飛鳥Ⅲの中で雲を見て旅のイマジネーションをさらに広げられるのでは」と評した。


授賞式終了後は、会場をホテルに移して表彰パーティーが開催された。会場には受賞作品22作品が展示され、作品の前で歓談したりと和やかなシーンも見られる。
グランプリを受賞した木村直広氏は自身の作品を前に「新潟の海からイマジネーションを受けた作品。作品が飛鳥Ⅲに乗って旅をすることで、新たな出会いが生まれることがうれしい」と喜んだ。
受賞作品の実物を目の前にすると、サイズに圧倒されつつ、細部に描き込まれた緻密さも目をひく。グランプリ作品では日本画で使われる岩絵具がキラキラと輝いて見え、また銀箔を貼ったという魚の目の部分が実に生き生きとしていた。飛鳥Ⅲの船上で、多くの人が絵に見入る姿が想像できた。
表彰パーティーには入選者も集まり、広い会場は華やぎに満ちていた。北海道地区、東北地区……とエリアごとに記念撮影も行われ、日本全国から応募が集まったことが見て取れた。郵船クルーズの篠田哲郎代表取締役はあいさつの中で「本当に日本全国から作品を寄せていただき、ありがたい。そしてそれらの作品が飛鳥Ⅲに乗って日本や世界をめぐっていく。飛鳥Ⅲが地方創生の一助となればうれしい」と語っていた。入賞者のみならず、表彰パーティーには協賛企業である各地の地方銀行の役員なども駆けつけていた。




ステージでは審査員らによる特別パネルディスカッションも行われた。本誌連載でもおなじみの海洋写真家の中村庸夫氏は、選出した作品について「見るたびに新しい発見が生まれる作品を選んだ」と語った。波や海をモチーフにした写真作品を前に、自身がかつて波をテーマにした研究をしていたことを振り返り、「作品の対象に対する勉強をすることで、さらに作品が深まる」と作家たちにエールを送った。
今回の公募展にはプロとして活躍している作家の方々が名を連ねた一方で、初めて応募したというアマチュアの方々もいた。審査員である日本画家の千住博氏はビデオメッセージを寄せ、「若いころに辛い時期もあり、筆を折ろうかと思ったこともあった。そんな時に自分の支えになったのが、コンテストの受賞だ。皆様もこの受賞を励みに、がんばってほしい」と熱い言葉を贈った。


郵船クルーズの西島裕司副社長は閉幕に際し、決意を語った。「これだけ多くの方々が作品を寄せ、この場に集ってくれたことに感謝する。来夏の飛鳥Ⅲ就航に向け、われわれも一丸となって準備を進めていく」。
取材協力=郵船クルーズ
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