「ぱしふぃっくびいなす」、
その土地ならではの味を求めて
寄港地の味をメニューにとり入れ、基本に忠実ながらも、時に変化をつけて。
その味を支える船上の面々の思いを聞いた。
写真=斉藤美春 文=吉田絵里
●積極的に寄港地の味をとり入れて
「『ぱしふぃっく びいなす』、食事がおいしくなっています」。弊誌では毎年、読者投票による人気企画「クルーズシップ・オブ・ザ・イヤー」を実施しているが、年々こんなコメントが目につくようになってきた。ぱしふぃっく びいなすといえば、関西を拠点にしたクルーズを多数実施、「ふれんどしっぷ」の愛称のとおり、フレンドリーなイメージの客船だ。その食事が進化している背景とは……秘密を探るべく乗船し、北山智博料理長に話を聞いた。
「一昨年ぐらい前から、積極的に寄港地の味をとり入れています。陸上にも担当者がいて、おいしく新しい食材を求め各地を探訪しています。その地の味、旬を重視したメニューが増えているんです」。
例えば奄美大島の名瀬に寄港した日のメニューには、「名瀬港仕入れのお造り」「奄美黒豚の蕗味噌焼き」「奄美太もずくの三杯酢」「パパイヤの漬物」など、半分以上が島にちなんだメニューだった。味はもちろん、例えば奄美大島のもずくはこんなに太くて歯ごたえがあるのか! という新しい発見をしながら食を堪能できた。いわば舌の船旅、だろうか。
「この日のメニューでいえば、もともとオナガダイという鯛を仕入れる予定でしたが、それがアオダイになりました。アオダイは初めてご提供する魚ですが、上品でおいしい白身魚ですね。寄港地の食材を使うということは、こうした変更が多々あり、作り手としては臨機応変な対応が求められます」。
さらに「味や見た目の流行も意識しています。食材や調理法に関しても新しいものがどんどん出てきますから、そうした食の最新情報には常に気を配っています。食材でも例えば冷蔵・冷凍方法で味が変わったりしますから」とも。こうした背景があってこそ、ぱしふぃっく びいなすの食が進化していると乗客たちは感じているのだろう。
「ただし、濃い味に頼るわけではありません。薄味でも出汁がしっかりきいたうまみのある味で、満足感を味わっていただきたいと思っています」。
新しさをとり入れつつ、基本には忠実に……それがぱしふぃっくびいなすの最新の味だ。