船上ビアガーデン、カジノに運動会も
イベント尽くしの「飛鳥Ⅱ」秋のゆったりクルーズ
多島美に見入り、橋に歓声を上げる
季節の移ろいを感じながら波に揺られる時間こそ、ぜいたくそのもの──夏が去った9月の初秋、飛鳥Ⅱの「秋の日本一周クルーズ」に乗船し、そう感じた。
日本一周と銘打っているだけあり、南は九州から、北は北海道までをぐるりとめぐる。寄港地のうち横浜、唐津、七尾、新潟、函館は2019年に開港記念年を迎えた港であることも特徴だ。歴史ある港町の風情を味わいながら、秋の味覚に舌鼓を打つ日々。国内クルーズとしては比較的長めなので、終日航海日がしっかり設けられている。寄港地だけでなく、ゆったりとした船上生活を楽しめるのも魅力だ。
●国内屈指の多島美と洋上ビアガーデンの宴
横浜を出航した飛鳥Ⅱは、翌日に神戸でさらに乗客を迎え、西へと進路をとった。瀬戸大橋をくぐり、そのまま九州へ向けて瀬戸内海を航行していく。本州と四国の間には、大小さまざまな島々が点在する。地形が入り組んでおり、風景が目まぐるしく変化するからずっと見続けていても退屈しない。国内屈指の多島美を船上から心ゆくまで満喫できるのは、今回のクルーズの目玉のひとつである。
晴天率の高さを誇る瀬戸内らしく、空は青く晴れ渡り、ポカポカとした陽気が漂っていた。屋根のない12デッキにいると、陽射しが強烈で、再び暑い夏が戻ってきたかのようだ。
そんな絶好のビール日和といえそうな中、シーホースプールで実施されたのが「飛鳥瀬戸内ビアフェスタ」だった。4種類のクラフトビールのほか、特製カクテルも並ぶ。プールサイドでバーベキューも行われ、チキンやソーセージなどが振る舞われた。
いわば船上ビアガーデンなのだが、これが大盛況だった。開始と同時にビールサーバーの前には期待に満ちた顔の人々の列ができた。人気はビール2杯とカクテル1杯がセットになった、お土産付きのスペシャルチケット。クラフトビールの定番ともいえるIPA(インディアン・ペール・エール)のほか、赤味噌入りや、日向夏ビールなど個性豊かなラインナップがそろう。「こっちの方が軽いかな」、「初めての味だねえ」と、乗客同士が笑顔で飲み比べた感想を教え合っていたのが印象的だった。
バンド演奏やバーテンダーによるカクテルショーなどもビアフェスタの会場に華を添えた。特に盛り上がったのは、しまなみ海道を構成する因島大橋を通過したときだ。巨大な橋の真下をくぐった瞬間、ビールグラスを手にした人々から大きな歓声が上がった。
●唐津くんちとドラマチックな出港
瀬戸内海を抜け九州へたどり着いた飛鳥Ⅱは、唐津に寄港した。大陸との貿易港として古くから栄えたところで、豊臣秀吉の朝鮮出兵における拠点でもあった。
唐津の名を全国に轟かせるのが、地域の伝統的な秋祭りである「唐津くんち」。下船して無料シャトルバスで市内へ向かうと、この唐津くんちの曳山が展示された施設のすぐそばに到着した。ほかにも唐津城など、見どころは市内中心部にコンパクトにまとまっており、自分のペースで歩いて観光するという乗客も多いようだった。
一方で、少し足を延ばして日本三大朝市のひとつ「呼子の朝市」を見に行くのもおもしろい。呼子といえば有名なのがイカ。この日はあいにく時化で漁ができなかったため、名物の活イカが食べられなかったものの、路上ではイカを干している露店を目にした。
唐津でとくに思い出に残ったのは出港シーンだ。地元・佐賀大学のよさこいチーム「嵐舞」による見送り演舞が行われた。強風が吹き荒れる中、元気いっぱいに踊る学生たちの姿に心を打たれた。パフォーマンスが終わった後も、岸から離れていく船を堤防の端ぎりぎりまで手を振りながら追いかけてきてくれ、こちらも船尾まで走って行って手を振り返した。飛鳥Ⅱで訪れたからこそ体験できた船旅らしいドラマチックなシーンだ。