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にっぽん丸を奏でるアスール★プラ★プティ★の一日
午前11時、快晴のクリスマス。出航セレモニーを皮切りに、バンドの1日が本格的に始まった。4階のデッキに、サンタクロースの帽子を被ったメンバーが並ぶ。ドラと汽笛の音に重ねて彼らが演奏するのは、映画『八十日間世界一周』のテーマ『アラウンド・ザ・ワールド』だ。高揚感あふれるマラカスとギターのリズムに乗って、にっぽん丸が勢いよく海上を滑り出した。
●長い音楽歴を誇るプロ集団
アスール★プラ★プティ★は総勢8人のにっぽん丸のハウスバンドだ。結成は2013年。リーダーとしてバンドをまとめるのは、ピアノとキーボードを担当するジョンである。ボーカルはベリンダとギャッツビー。ガリーはギター、エンジェルはベース、マークはドラム担当。サックスとフルートを操るのはロリーだ。彼らは音楽専門のエージェントが行う過酷なオーディションを勝ち抜いた精鋭たちである。メンバーのプロ歴は最長で30年と実に長く、多様な楽器編成で演奏ができる。なぜ日本船のミュージシャンになることを選んだのだろうか? 「日本の文化や音楽に興味があった。世界中を旅しながら好きな音楽を仕事にできるからとても幸せだよ」とメンバーは朗らかに言う。
陽光あふれる昼下がり、ラウンジ「海」でメロディータイムが始まった。ステージに立つのはボーカルのギャッツビーとギターのガリーだ。小さな子供たちも親御さんと一緒に外国の楽曲に耳を傾けている。クイーンの『愛という名の欲望』を情緒たっぷりに歌っていたかと思えば、子供たちとの愉快な掛け合いで楽しませてくれる。サービス精神あふれるショーは、盛況のうちに幕を閉じた。
クルーズの客層は幅広いため、音楽の好みや反応も千差万別に違いない。バンドメンバーを驚かせるような曲をリクエストされることもあるのではないだろうか。「もちろん! 日本の演歌や歌謡曲とかね」と、みな苦笑いする。確かに、日本の演歌や歌謡曲の歌いまわしや世界観は彼らになじみのないものだろう。しかし、曲を譜面に落として練習することで、レパートリーを増やしてきたという。今や『秋桜』(山口百恵)は持ち歌の一つで、乗客に大人気の『上を向いて歩こう』(坂本九)はバンドにとってもお気に入りの曲となった。
とはいえメンバーが本領を発揮するのは欧米のロック、ポップ、R&B、ジャズなどのジャンルだ。影響を受けたミュージシャンはポール・マッカートニーやジョン・コルトレーンなど多岐にわたる。観客に受けるのは、フランク・シナトラやビートルズなど世界的に有名な50〜60年代の曲とのこと。時に乗客も交えて歌うことで、より親密なステージになるよう心掛けているという。