独占取材敢行!シンガポールで大改装、新生「飛鳥Ⅱ」の舞台裏
小さき人間が、巨大船に挑む
2月下旬、シンガポールのチャンギ国際空港に降り立った。飛鳥Ⅱの大改装が行われているセンブコープマリンに車を走らせていると、色鮮やかな南国の花が次々と目に飛び込んでくる。さすが「ガーデンシティ」の異名を持つシンガポールだ。こうした鮮やかな花々はセンブコープの敷地内にも植えられていて、船舶の改修を行うヤードというと、機械的で無機質な空間だろうと構えていた心を、スッとほぐしてくれた。
飛鳥Ⅱの姿は、ゲートを入る前から見つけられた。ヤードの最も手前のドックには、見慣れた二引きのファンネル。そのファンネルには遠目でもハッキリわかる多数の足場が組まれていて、いつもの飛鳥Ⅱとは少し異なっていた。
いざ船に近づいて驚いた。大きいのだ。もちろんこれまでも飛鳥Ⅱの姿を至近距離で見る機会はあったが、いつも以上に大きく感じる。というのも、改装中の飛鳥Ⅱは、水がないドライドックにいるため、海に浮かんでいる時よりもはるかに下まで見えるからだ。船首方向に行くと普段は目にすることのないバルバス・バウ(球状船首)もむき出しになっている。しかも多くの人が船体のあちこちにかじりつくように作業をしている。その様子は、まるで童話の中の小人が巨大船に挑んでいるかのようにさえ見えた。
さらに船体に近づいてみると、飛鳥Ⅱはたくさんのケーブルにつながれていた。けれどもその奥に見える船体はこれまでより輝いて見えた。すでに2週間をかけ、船体外部の大部分を塗りなおしたのだという。
「実はここに至るまで、何度も塗り重ねているんです。最初はさび止めの赤を塗り、その後に白が映えるように下地としてグレーを塗り、次に白を二度塗りして。場所によっては塗りなおす前に、元の塗装をはがす作業もあるんですよ」と、作業に当たる飛鳥Ⅱのクルーが教えてくれた。グレーの飛鳥Ⅱ……なかなか想像がつかないが、いつもの飛鳥Ⅱが別の船になってしまったような、少し物々しい雰囲気だったらしい。
郵船クルーズが飛鳥Ⅱの大改装を発表したのが、2019年5月。日本船で初めて海外で改修し、本格的な露天風呂を設置すること、新たなレストラン「ザ・ベール」を設けること、「アスカプラザ」に巨大なLEDディスプレイを設置すること、畳を採り入れた和洋室を造ることなどを発表し、ファンは大いに沸き立った。同社の坂本深社長は当時、「新造船建造を見据えつつ、今後10年にわたって飛鳥Ⅱが健やかに活躍するための大改装」と語っていた。
発表当時、弊誌では飛鳥Ⅱの新たにできる施設に大きな関心を抱いていた。どんなすてきな場所でどんな体験ができるのだろう。そんな思惑はもちろん新たな飛鳥Ⅱに対する期待の表れだが、実際にこの改装現場を訪れるうちに、実は少しずつ思いが変わっていった。
いざ訪れた船内は、これまで知っていた飛鳥Ⅱとはまったく違った。家具などは移動して一カ所にまとめられ、床などあちこちが養生されている。そして何より、船内に漂う熱気がすさまじい。シンガポールの2月の気温は30度超え。日本でも真夏のクルーズでは船内にはエアコンが効いているのが普通だが、改装中だけにエアコンは使えない。作業中の人の側には扇風機などが置かれているが、船内移動中は熱気が体中にまとわりつく。作業着は長そで長ズボンだから、なおさら暑さがこもる。
「最初は皆、この暑さにやられましたね。特に日本の真冬から真逆の気候のシンガポールに来たので、最初の1週間は特に大変でした」。そう語ってくれたのは、郵船クルーズ船舶部工務チームの中堂宏治さんだ。
いるだけでじんわりと汗が染み出てくるような船内だが、毎朝行われているというミーティングでは、そんなことを微塵も感じさせない緊張感が漂っていた。その日の作業工程を確認したり、それに対して意見を交わしたり。全体ミーティングが終わっても、各部門でのやりとりが続く。