ぱしふぃっくびいなすに「別荘」感覚で乗船、ゆったりと島めぐりへ
ゆったりとした空気のなか、船と船、人と人とのつながりを感じながらの船旅を体験した。
写真・文=斎藤正洋
出航日、九州では初雪が観測されたというニュースが流れてきた。そんななか、「ぱしふぃっく びいなす」は横浜・大さん橋から一路、春の気配が漂う南の島々へ。
肌寒さも相まって船内は落ち着いた様子だったが、それを打ち消すかのように、50年代のロックンロールとともにセイルアウェー・セレモニーが始まった。乗客はシャンパンを手に「あらお久しぶり!」「前もお会いしましたね」などと会話を交わしている。クルーも乗客を温かく迎えてダンスに誘い、即席ペアが軽快にステップを踏む。それはどこかおとぎ話の村のような、アットホームな空気だった。さすが「ふれんどしっぷ」だ。出航翌日が終日航海日という航程も、ゆったりした気持ちにさせてくれる一因だろう。
●屋久島で、森の生命力を感じる
航海日のランチには、今回の寄港地である沖縄にちなんだ薬膳メニューが供された。ランチ前には、薬膳の効能についてのセミナーも。健康に注目が集まるいまだが、食こそ健康への第一歩だと感じた。
紀伊沖を航行中、スマートフォンがつながらなくなった。こうなると逆に、普段スマートフォン依存症になっているのを思い知らされる。ふと昔の友人のことを思い出した。こうして自分の中にある引き出しを整理するのも、ゆっくりと動き、そして適度な広さのある、ぱしふぃっく びいなすだからこそできることかもしれない。
夜には船長主催のカクテルパーティーが開かれた。船長のスピーチでは、乗船してくれたことへの謝辞がこもっていた。
翌朝、少し高くなったエンジン音で目が覚めた。船はすぐに寄港地のひとつ、屋久島の宮之浦港に入った。朝の逆光の中、海から一気に立ち上がっていく島のスカイラインが目に入る。どこかタヒチの風景と重なる。
寄港地ツアーでは、白谷雲水峡と大川の滝、永田いなか浜をめぐる屋久島一周コースを選択した。ツアーバスは一気に700メートルを登り、白谷雲水峡へ。そこから往復1時間ほどのハイキングに出た。時間は長くないが、杉が生えた森を行く本格的なものだ。沢にかかる吊り橋からさらに進んで行き、倒木も岩もすべてが苔に覆われた谷を歩く。深い緑に覆われた中を歩くと、静寂に包まれた森が、心を穏やかにしてくれるのを感じる。
ゴールの二代大杉は、朽ちた先代の巨木の上から新しい木が育ったもの。先代の木の根は中央が空洞になっているにもかかわらず、そこと新しい木がつながっていく姿に、森の生命力が感じられた。
トビウオの天ぷらと近海のカニを中心にした多彩なランチの後は、大川の滝へ。80メートルを一気に落ちる豪快な水しぶきが見られたが、それでも水量最大時の半分ほどとのことで、滝は2つに分かれていた。
最後は永田いなか浜へ。それまで岩の海だったのが突然、きれいなビーチに変わった。日本で一番多くの亀が産卵する浜なので、気をつけて砂浜に入る。海は黄緑がかった波打ち際から、モザイクのようにさまざまな青を混ぜ合わせながら、水平線で青に変わっていく。浜はザラメよりも目の粗い砂で、明るいクリーム色のじゅうたんが続く。この粗さは歩くには崩れやすいが、砂に埋められた亀の卵が呼吸するのに最適な環境だという。以前、涙を流しながら産卵する亀を映像で見て胸を締めつけられた記憶がある。まさにこの場だと思うと感慨もひとしおだった。