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【特集クルーズ新時代】台湾航港局「早期再開で防疫対策の成果示す」

2020.09.16
業界

特集「クルーズ新時代に向けて」 第16回
台湾交通部航港局 前局長 郭添貴(Kuo, Tien kuei)氏

世界的な運航停止が続く中、今年7月に世界に先駆けて客船の受け入れを再開した台湾。外国船社にカボタージュ(※1)を特例として認めた背景には、台湾の防疫対策の成果を世界に示す狙いもあった。一歩先をゆく台湾のクルーズ再開への道筋を探るべく、台湾交通部航港局の郭添貴・前局長(写真)に聞いた。

 

基隆発着で運航を再開したエクスプローラー・ドリーム

――台湾では7月26日からドリーム・クルーズが運航を再開した。

ドリーム・クルーズの「エクスプローラー・ドリーム」(7万5338トン、最大乗客定員3,630人)が基隆発着で澎湖、馬祖、金門など台湾の離島をめぐる「アイランド・ホッピング・クルーズ」を実施している。いずれも2~4泊のショートクルーズで、9月2日までの1カ月あまりで12航海、1万5000人以上が乗船した。これまで全ての人が安心して乗船し、健康的に帰宅している。

 

――運航再開への過程は(計画開始の時期、運航再開の条件など)。

2020年1月から新型コロナウイルスの感染が客船で立て続けに数件発生した。客船は密集・密接のリスクが高いことから、わが国の中央感染症指揮センターは2月6日以降、外国客船の台湾入港を禁止した。

4月中旬、台湾国内の感染状況が徐々に安定したことから、外国船を台湾に誘致すべく、航港局は外国船に対する3段階の規制緩和を計画(詳細は後述)。まずは「アイランド・ホッピング・クルーズ」を推進することとした。5月中旬にクルーズ協会や旅行会社を訪問し、船会社と連携した感染防止対策を提案。6月下旬に中央感染症指揮センターの同意を得て、航港局は外国船社であるドリーム・クルーズに特別許可の形で国内クルーズの運航開始を認めた(カボタージュの特別許可 ※2)。

その後、公衆衛生の専門家や港湾警察総隊、CIQ(税関・出入国管理・検疫)、港湾運営会社、関係機関と共同で防疫対策を実施し、7月26日、台湾は世界で最初に中型船が運航を再開した国となった。

感染が拡大しているあいだは、客船の入国には「特別審査」を採用している。船会社は運航再開の申請にあたり、(1)これまで新型コロナウイルスの船上感染が一度も発生していない (2)乗組員が一度も陽性判定を受けていない――の条件を満たす必要がある。さらに、「クルーズ船防疫作業計画」を策定し、船舶と乗組員の防疫措置や、緊急対応計画などを提出しなくてはならない。

 

――運航再開にあたって、どのような感染症予防・安全対策を実施したか(乗船に必要な条件、港側の受け入れ体制など)。

主な対策は以下の通り。

■船舶の防疫設備
乗船口の体温モニター設置、空調システム循環消毒プロセス、陰圧隔離室の整備のほか、客室・乗組員室・公共エリアの空調を完全な屋外空気循環システム(または外窓の設置)とする。医務室に隔離病室を完備し、医療廃棄物処理や隔離管理の手順などを提出する。

■乗組員の防疫措置
全乗組員は台湾で下船・入国し、検疫のためホテルで1名一室で14日間待機する(船の管理に必要な人員を除く)。検疫期間満了後はPCR検査を1度行い、さらに7日間の自主健康管理を行う。

船に残った乗組員は、検疫のため14日間船内で待機する。活動範囲は作業エリアと乗組員室のみとし、1人一室で宿泊する。待機期間中は船会社側が陸上から食事を提供(弁当を搬入)し、PCR検査を3度(1日目、7日目、14日目)行い、さらに7日間の自主健康管理を行う。

■船内消毒
法律に準じた消毒専門業者により、欧州連合(EU)の基準に従って船全体に消毒作業を行う。

■乗客への条件
台湾国民、および居留証を保持する外国人に限り、乗船前30日以内の海外渡航歴がないという健康自己申告書と、実名による搭乗券購入、パスポート持参があれば、乗船することができる。

■運航後の健康管理
公共エリアの消毒液設置、時間・エリアに分けての食事の規定、レストランや劇場のイベント終了後の清掃消毒作業、座席の間隔空け、座席数の半減または透明の仕切りの設置、ビュッフェサービスの中止、公共エリアでのマスク着用など。

乗船前に各種手続きを済ませることで、乗船手順を短縮させる。そのほか、感染症の専門医師を乗船させ、船内でのカウンセリングを提供する。航港局はCIQ関連機関や港湾管理会社、公衆衛生の専門家を招集して、乗船前検査や防疫対応訓練を行う。運航中には抜き打ちで防疫業務の実施状況を検査する。

 

――外国船社であるドリーム・クルーズに国内クルーズを認めた背景は。

新型コロナウイルスの影響を受け、世界中のすべての客船が運航を停止したが、感染の抑え込みが安定している台湾では、中央感染症指揮センターの「防疫新生活運動」や交通部の「安心旅行政策」をもとに、航港局が産官学と連携して、前述の「アイランド・ホッピング・クルーズ」を推進した。

国内クルーズは地方自治体の観光を振興し、寄港地である離島の経済発展を促進できる。また、多くの国が観光客の受け入れを再開せず、海外旅行に行けない台湾国民にとって、国内の離島は最も人気の旅行先となった。宿泊施設を伴う客船は、離島のインフラ不足を効果的に解決できる。船会社と旅行会社、地元企業が共同企画したツアーは観光業の復興を促進した。

さらに、船上で使う食材や生活用品、燃料、水の90パーセントを台湾で調達。新鮮な国産食材を使った特別メニューを提供したり、お土産として特色ある農産物を調達するなど、台湾におけるサプライチェーン(供給連鎖)を確立させ、農業経済の発展を促進させる狙いもある。

地方経済の振興や観光業の復興促進、現地消費の拡大だけでなく、世界中に台湾防疫の具体的な成果を示すことができた。

 

――このクルーズの成功を受け、今後さらに日程や範囲を拡大したクルーズを認める計画はあるか。

ドリーム・クルーズによる離島クルーズは10月14日まで計31航海あり、さらに10月22日~11月27日には基隆、安平、高雄、花蓮をめぐる台湾一周クルーズを実施する予定だ。

航港局は、外国船社の入国規制緩和については3段階、航程については5ステップの計画を策定している。

第1段階は「特別許可による外国船の国内運航」の段階。航程は、国内アイランド・ホッピングの寄港地の増加(第1ステップ)、台湾一周クルーズの増加(第2ステップ)、エクスプローラー型客船やフライ&クルーズの導入(第3ステップ)を含むアイランド・ホッピング・クルーズとなる。

第2段階は「外国船の海外寄港地の拡大」。中央感染症指揮センターが指定する感染警戒通知国(第1級)に過去30日間停泊していないなど一定の条件をクリアした場合、航港局は外国船の入出港届を受理し、台湾を基点として、感染拡大が抑えられている近隣地域と共に「クルーズ・トラベル・バブル圏」を展開していく(第4ステップ)。

第3段階は「外国船の入港・停泊再開」。中央感染症指揮センターの政策や入国規制緩和に合わせ、外国船の入港・停泊を再開する。乗客は外国船で出入国できる。「オリジナル・クルーズ・ブランドづくり」(第5ステップ)を展開していく。

ただし、今後の海外クルーズの再開については、世界の感染状況や、近隣諸国の入国規制の状況などによって判断する必要があると考えている。

(※1)カボタージュとは、国内の港間の輸送(旅客・貨物)のこと。外国船による国内輸送は原則禁止されている。

(※2)台湾では航業法により、外国船社による国内クルーズが禁止されている。ただし、主管機関の特別な許可を得ている場合にはこの限りではない。

聞き手:宮崎由貴子
2020年9月9日 書面による取材

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