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【特集】第15回 ポナン伊知地亮日本・韓国支社長に聞く、先陣を切った運航再開と日本発着の展望
フランス船社として、そして小型探検船を運航する船社として、欧州で運航再開の先陣を切ったポナン。本誌10月号にもその様子をレポートしているが、同社はいかにして運航再開に踏み切ったのか。そして同社はこれまでも日本発着を実施していたが、今後はどんな展望を持っているのか。伊知地亮日本・韓国支社長は、「ピンチをチャンスに」の精神のもと、新たな展開を模索していた。
――まずはポナンの現在の状況を教えていただければと思います。
伊知地亮日本・韓国支社長(以下略) フランスで5航路再開したあと、アイスランドと北極と順次運航を再開しました。運行再開して2か月が経過しますが、今夏は計9隻で40本のクルーズを実施いたしました。内訳は「ル・ブーゲンヴィル」が7本のボルドー発着、「ル・ジャックカルティエ」が7本のサンマロ発着、「ル・シャンプラン」が2本のドブロブニク発着、「ル・デュモンデュヴィル」が1本のルアーブル発着、「ル・ベロ」が5本のレイキャビック発着、「ロストラル」が5本のマルセイユ発着、「ル リリアル」が7本のニース発着、「ル ボレアル」が4本のロングイヤービエン発着となっています。また同じグループでタヒチを航行するポールゴーギャン・クルーズの「ル・ポールゴーギャン」も2本のパペーテ発着を実施しています。
ただ一部のクルーズに関して、運航はできるけれども、集客ができずに運休になったクルーズも出ています。運航許可が下りるまでに時間がかかったこともあり、販売にかける期間がかなり短かったためです。9月末まではある程度集客できれば運航し、それが難しいクルーズに関しては運休としています。10月以降に関しては、これからの発表になります。
――そのほかのエリアはいかがでしょうか。
現在はオーストラリアでの国内クルーズの再開を目指していて、「ル・ソレアル」がタヒチのパペーテ、「ル・ラペルーズ」がニューカレドニアに停泊しています。オーストラリアで運航許可がおりれば、再開したいと思っています。
加えて、日本でもぜひ運航再開させたいと思っています。邦船が運航再開してからというのが現実的かと思いますが、邦船が運航再開した暁には、次に続きたいと思っています。
――今後日本で運航再開する場合、ターゲットは日本人になるのでしょうか。
基本はそうなると考えています。あとは台湾や中国、韓国あたりの近隣の航空路が再開すれば、そうした隣国の方々も可能性があると思います。
●早期の運航再開、それができた要因は
――他社に先駆けて運航再開ができた要因は。
一番大きな特徴は全船が都市インフラから遠く離れた辺境地で、エクスペディション型の運行ができる船だということです。弊社では南極を筆頭に、どの病院からも1000キロ以上離れたエリアを航行する商品をご案内しています。ですので船自体は小型ですが、他社の船に比べると医務室に最新の設備が充実しています。
新型コロナ感染症が発生したことで、船内でPCR検査をできる体制を早期に整えましたが、もともと感染症の検査キットは搭載されていました。それが他社よりもスピード感をもって運航再開できた理由のひとつです。
加えて新造して間もない最新船ばかりだというのもあります。客室は空気の内部循環をしない構造になっています。パブリックエリアにおいても1時間に5回空気が入れ替わる設計になっており、換気の問題もクリアできています。さらに船のサイズが小型というのも有利だったと思います。
今回のコロナ禍で、インサイド(内側)の客室について議論されることもありますが、そもそも弊社の船にはインサイドの客室がありません。現在日本では3密を避けましょうと言われていますが、ポナンはそもそも「密」がない船会社と言えます。コロナ禍で設定されたヘルスプロトコルによってさらに徹底されています。
――港のない場所に上陸するなど、ユニークなクルーズを実施しています。
フランスで実施しているクルーズは通常だと港に入る地で、あえて人がいない場所にゾディアック(※高性能ゴムボート)で上陸し、地域の人との濃厚接触を避けるというクルーズを実施しています。ノルマンディー上陸作戦が行われたオマハビーチにゾディアックで上陸するというプログラムも盛り込まれています。イレギュラーな形ではありますが、乗ったお客さまからの満足度はかなり高いです。今回のコロナがきっかけで、こうしたスタイルのクルーズが増えてくると思います。
今回のコロナ禍で、港がなくてもクルーズができるということが、改めて弊社の強みであるということを再認識しました。
――船内の感染症対策も徹底していると聞いています。
導入しているPCR検査器は、一回に20人まで検査でき、一日で全乗客乗員の検査が可能です。つい先日も傘下のポールゴーギャン・クルーズで再開したタヒチクルーズで、お一人の方が乗船後にコロナの陽性結果が出ました。クルーズを中断しパペーテへの帰路に全乗客乗員に検査することができ、その後も継続的に全員が陰性結果となりました。その経験から、弊社が設定した感染症に対するプロトコルがうまく稼働しているという認識を持ちました。かなり早い段階で対応し、集団感染を防ぐことができました。
ただ運航再開ができても、課題はやはり色々とあります。乗船地までお客さまが行けないという問題もあります。弊社でいうと毎年南極クルーズを実施していますが、お客さまが空路で乗船地にたどり着けるかというハードルがあります。
だからしばらくの期間は、欧州で実施しているような臨時のクルーズを実施していくと思います。運航再開はできましたが、当初の運行計画に全面復旧するにはまだ時間を要するのではないかと思っています。
●今後の展開、日本発着のゆくえ
――今シーズンの南極クルーズはどうなるのでしょうか。
通常ですとシーズンには4隻を南極に配船していますが、今年は4隻は厳しいと思います。販売しなければいけない期間に動けなかったことに加え、すでに予約されているお客さまが無事に乗船地まではたどり着けるか不透明です。弊社ではいままさに議論しているところですで、近々決まってくるかと思います。
――弊誌「CRUISE」10月号のポナンのクルーズ・レポートにも記載しましたが、PCR検査を受けて船に足を運び入れることは、一種「安心」の中に入れるという意味もあるかと思います。
本当にそうですね。ただ日本ではそうした認識になるには、もっと議論し、整理することが必要だと思います。現在実施されているGo Toキャンペーンでも、感染が拡大されるという非難もあります。一方で、事業者は守らなければならないとされている。けれどもクルーズ事業者はその中から除外されています。船と船以外の交通・宿泊インフラなどとのリスクファクターと経済的なプライオリティーを、もっと業界横断的に検証する必要があると感じています。
リスクの面からも、弊社のような小型船はリスクが少ないかと思いますし、そうしたことを日本でも伝えられたらと思いますね。
――日本は離島も多く、ポナンなら日本人が知らない日本を見せてくれそうです。
ハードルはあるのですが、うまくやれば、日本発着クルーズはものすごくおもしろい商品ができるかと思います。
実際、21年6月に予定している沖縄エクスペディション・クルーズはとても注目を浴びています。次は北海道や瀬戸内海での新航路も検討しています。特に日本列島の先にある千島列島は、既に就航しておりますが、まだ日本ではご紹介出来ていないと感じています。私自身数年前に行きましたが、千島列島こそ「手つかずの大自然」が残る、世界でも数少ない地だと思います。日本からこんなに近くに、こんなに自然が残されている地があるということを、ぜひ日本人のお客さまにご案内できたらと思っています。
――コロナの影響で、お客さまの層も少し変わってくるかもしれませんね。
もともと弊社は創業者自身が船乗りで、会社全体でも船乗りが多くいる会社です。ですので、ご提供するクルーズに関しては、「ポナンの船だから行ける航路」が大事だと考えています。いわば皆、探検家モードで商品づくりをしていて(笑)、どこに行きたいかという旅先で選んでもらいたいと考えています。
それに加え、船自体が最新でゆとりがあり、おしゃれだけど気楽さもある。それが選んでいただける特徴なのかなと思います。弊社はラグジュアリーなのにフォーマルは設定していません。
ただ日本や中国市場においては、弊社の商品は10日から2週間と旅行期間が少し長すぎる面もあると感じています。ですので、自宅発着1週間や10日ぐらいの、日本から近いところでのネイチャークルーズを実施できればと考えています。
――外国船の多くが日本発着をキャンセルするなかで、ポナンが日本市場に注力してくれるのはありがたく感じます。
小型船なので乗客を集めやすいというのがありますし、日本発着は欧米の顧客からとても人気が高いです。また弊社の人気クルーズの中にはキンバリーといったオーストラリア、オセアニア地域のクルーズがあります。オーストラリア市場は弊社の中では割合が高く、4割近くになります。オーストラリアと日本は季節が逆ですので、オーストラリアがオフシーズンの時、ハイシーズンの日本発着クルーズを実施できるという事情もあります。
いずれにせよ、これからはエッジの効いたコンテンツでないと、価格競争にさらされてしまうと感じています。だからこそ日本発着のラグジュアリー・エクスペディションのリーダーになる気持ちで商品を作っていこうという目標を持っています。
それは日本に限らず、地中海もそうだし、南極もそうだと思います。この厳しい事態、会社の独自色を出さないと、価格競争にさらされていきます。そのためには他社にない色をより強調していく必要があります。
――ポナンは寄港地での過ごし方も特徴的です。
寄港に関して言うなら、これからは何が地域に還元されるのかなと可視化できるようにしないといけないと思っています。
実は今後、船内で消費する食材の50パーセント以上を地域の中で調達しようとしています。いわばクルーズの地産地消ですね。日本の港に寄港するときには、地域の漁協・農協などと連携して食材を仕入れるなど。今は市民の方々には客船に対して不安に思う声もあるかもしれませんが、こうした地産地消だったり、文化交流だったりで、客船入港のメリットをきちんと示していくことが大事だと思います。それは今後の商品づくりの中で意識していきたいと思っていますね。乗船頂くお客さまだけではなく、港や地元の方々とWin‐Winな関係が作れればと思っています。
食材に限らず、例年の日本発着では多くのお客さまが来日の記念に良質な包丁やお箸を買いたいとおっしゃいます。そういったMade in Japanの商品をもっとお客さまに紹介していく仕掛けを考えています。
先日の沖縄視察の際に久米島に行ったのですが、久米島紬の作品を拝見させて頂いて「これは絶対売れるし、喜ばれる!」と確信しました。そういった伝統工芸品の販路として客船は一助を担えるのではと考えています。
これまではこうした活動に関しては、日本では国を通して許可をとろうとしてきた面があります。けれどこれからはもっとダイレクトに、地元の方と協力関係を作れないかと思っています。今までのトップダウンから、ボトムアップでできないかなと。それは邦船3社が長年積み重ねてきたことだと思っています。弊社はフランスの船社ですが、日本支社ではそうした活動をしていきたいと思っています。それによってできあがるクルーズ商品は、日本人の方々だけでなく、欧米の方々も喜ぶものになると思います。
●より独自性のある船会社を目指して
――このコロナ禍は転換期になりそうですね。
弊社は船でしかできないことを商品としているので、今後は復活できる自信があります。例えば南極は船でしかいけないですし、沖縄の離島めぐりも船だからこその商品です。
その分、弊社では船になくていいものは搭載しないという方針をとっています。例えば船内にカジノを作らない、などですね。そういう意味ではこのコロナ禍で動きも早く、ユニークな会社だなと改めて認識しています。
コロナによる影響が出始めたとき、社長から毎日、全社員宛てにメールが来ていました。その一通目には、「最後の最後まで一人の社員も減らさず、この危機を乗り越えたい」と書いてあり、今もそれが続いています。ほかにも乗る予定だった乗組員がコロナで乗船できなくなったときには、社員同士で寄付を募って、その乗組員を支えようという動きもありました。ポナンは会社が小さい分、家族的な雰囲気ですし、それがこのコロナ禍でより感じられるようになりました。
業界的にも弊社は早々にプロトコルを発表して運航再開をしたことなどで注目が集まっているのを感じます。その風をうまく使って広がっていきたいと思っていますし、より独自性のある、おもしろい船会社を目指していきたいですね。びっくりするような商品を発表できればと思っています。
インタビュー:吉田絵里(CRUISE編集長)
2020年8月19日オンラインにて実施
【特集ページ】
https://www.cruise-mag.com/special/2020afc/index15.html
写真はポナンの伊知地亮日本・韓国支社長/エクスペディションリーダー