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【特集】アフターコロナのクルーズ新時代 第10回 マーキュリートラベル東山真明代表
第10回 マーキュリートラベル東山真明代表に聞く、
スモール&ラグジュアリー市場の行方
主にスモール&ラグジュアリーシップの販売に注力、本誌CRUISEでの連載も好評だったマーキュリートラベルの東山真明代表。大型客船とは一線を画すスモール&ラグジュアリーシップの現在とこれからについて聞いた。
●6月以降、スモール&ラグジュアリーシップは急激に回復
――まずは御社の現状をお伺いできればと思います。
東山真明代表(以下略) 「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの感染拡大が起きたのが2月、連日テレビなどで放送されたのもあり、やはりイメージが悪くなってしまいました。そのせいか、3月~5月にかけては、予約や問い合わせはピタッと止まってしまいましたね。お客さまからのキャンセルもあったのですが、船会社がクルーズをキャンセルすることも多く、その時期は事後処理、返金作業などが大半でした。
それが6月に入って、急激な回復を見せています。予約が入るのは、スモール&ラグジュアリーな船ばかりです。予約してくださる方は、皆クルーズ慣れしたベテランの方が多いですね。自粛疲れもあるのか、そろそろどこかに行きたいという声も多く、力強く回復しています。経済的にもコロナによって大きな影響を受けていない方々なのかもしれません。
ただ客室に対する意識は変わったというか、「ベランダ付きは絶対」という方が増えたのを感じます。ダイヤモンド・プリンセスの報道で、インサイド(※内側客室)に関するニュースが多くあった影響もあるのでしょう。弊社でいえば、リッツカールトンやリージェントセブンシーズクルーズなどが好調ですが、これらの客船は全室ベランダ付きです。今後の船選びの基準として、窓やベランダ付き客室が最低条件になってくるような気がします。
予約が入るエリアは地中海やカリブ海など、来年のゴールデンウィーク以降ですね。やはりいつ入国できるか、そのハードルが高いというのがあります。
弊社としては下期の南半球、オーストラリアやニュージーランドを勧めたく思っています。オーストラリアやニュージーランドは新型コロナウイルスを比較的抑え込んでいて、先日は日本への入国規制の緩和を検討するという報道もありました。下期、日本が冬の時期に温かい南半球に行けるといいなと思っています。また1月には南極クルーズの予定も入っていますが、今のところ予約は落ちていません。
――御社で取り扱いのあるシードリーム・ヨットクラブですが、6月にノルウェーでクルーズを再開するとのことです。
今弊社で取り扱いをしているシードリーム・ヨットクラブやポナンは船がヨーロッパにいます。だから苦肉の策として欧州の一カ国を中心としたクルーズを実施するのでしょう。ポナンはフランス船籍でフランス人だけを乗せるクルーズをします。
シードリーム・ヨットクラブのオーナーはノルウェー人で、今回はノルウェー人乗客だけのクルーズを実施します。ノルウェーは古くからの海運王国で、人口が少ない割にクルーズ人口が多い。シードリーム・ヨットクラブの船がノルウェーに来ることは決して多くないので、この機会だから乗りたいという人が多いのでしょう。
●ヨットスタイルとエクスペディションは今後も市場拡大
――東山さんは日本各地でクルーズ・セミナーなども行ってきました。こちらへの影響はどうでしょうか。
誘致に関しては、スモール&ラグジュアリーシップの日本発着クルーズに期待が高まっていたところです。船会社にとって日本は大事なディスティネーションであり、クルーズ料金も高く設定できるエリアでした。今後はいつ乗客である外国人の方々が入国できるかにかかっています。春はすべてキャンセルになりましたが、秋までに入国できるかどうかが重要です。
またカボタージュの問題もあります。日本からだと一番近いのは釜山ですが、ここに入港できるかという問題もあります。コロナもそうですが、徴用工問題など感情的な面も懸案事項です。そういう意味では、日本でも例えば1万トン以下の客船などの制限付きで、カボタージュに関して特例の規制緩和などを設けてもらえるとスモール&ラグジュアリーシップは日本に来やすくなると思います。
現在、スモールシップは世界中でどんどん建造しています。クルーズの世界的なトレンドは、ヨットスタイルとエクスペディション(※探検船)です。それに伴い、これまで主に西日本に入港するスモールシップが増えていました。多くの探検船は日本の冬季に南極を、夏季に北極を航行していますが、その間の時期に日本を航行する客船は今後も増えていくと思います。だからこそカボタージュの特例措置があると、釜山から遠い東日本の港から乗船できるコースも組むことができます。
一方でこの状況で客船入港に関して不安に思う声もあるでしょうね。予定されていたクルーズ・セミナーもなくなりました。もともと誘致の鉄則は、その地から乗船する人を見つけることだとお伝えしてきました。乗る人がいるからこそ船が来るのです。そのためのセミナーでしたが、この状況では開催は難しいですね。
一方で、客船誘致はこれまで加熱しすぎていたともいえます。今回のコロナ禍でいったんリセットし、なんのために誘致をするのか、はっきりさせる良い機会なのかもしれません。文化交流なのか、経済効果なのか。いずれにせよ、特に瀬戸内海エリアの港にはこれからもポテンシャルがあるとは思いますし、スモールシップの数が増えていく中で、日本に来たいという船は増えていくと思います。
●数の時代から質の時代へ向かう
――そのほかの船社はどうでしょうか。
日本船はいま飛鳥の下期の仮予約が始まっていまして、人気が高いですね。「外国ではない」という安心感があるのでしょう。同様に外国船の日本発着、例えばホーランドアメリカの横浜発着やポナンの大阪~舞鶴なども予約が入っています。ただ外国船の日本発着は船が日本に来てくれないと実施できませんから、その点でも先のカボタージュの話とリンクしていますね。
――今後のクルーズ業界のあり方、そして必要なことは。
大丈夫ですよという情報発信が大事だと思います。それこそ業界の方々、旅行会社やメディアが率先して乗って、安全だという情報発信を身をもってしていくことです。
最初のクルーズで大型船に乗る人は多いかもしれませんが、陸で上質な旅をしている人は、最初がスモールラグジュアリーでもいいと思います。内容を考えれば、スモールシップのクルーズ代金、例えば一泊5万円というのは決して高くありません。この値段の中にはアルコールを含むオールインクルーシブで、客室はそれなりに広く、バルコニーがあって。
これまで大型船のクルーズ代金はむしろ安すぎたのかもしれません。今回のコロナの感染拡大で、大型船がインサイドを売らなくなったとしたら、クルーズ代金は上がっていくかもしれませんが、それでいいと思うんです。代金が上がったぶん、安全を確保するという方向に向かっていけばと思います。
そもそも安さでマーケットを拡大させるやり方は、行きづまる気がします。価格は大事なファクターではありますが、そればかりではないと思います。ここにきてお客さまの船の選び方が変わってきているのは感じます。数を追いかけるから、質を追いかける時代になるのかなと思っています。
インタビュー:吉田絵里(CRUISE編集長)
6月18日電話にて実施
【特集ページ】
https://www.cruise-mag.com/special/2020afc/index10.html
写真はマーキュリートラベルの東山真明代表