客船評論家ダグラス・ワードのクルーズ・ウォッチ
昨今のクルーズ業界を俯瞰し、毎回テーマに沿って、分析&解説していきます。
今号は未来を占うこのテーマ。
【新連載・今号のテーマ】2022年、これからのクルーズ
──2022年はどんな予想をされていますか。
流動的、地元的(じもとてき)、持続的と私は考えています。ひとつずつご説明しましょう。
1)流動的
新型コロナウイルス感染者が出たため、突然クルーズがキャンセルされたり、入港が拒否されたり、港内や船内で停留になったりという事例が世界中で報告されています。
予約していても、いつ変更になるかわかりません。流動的ですね。出航日や航路が変わる可能性があるため、船社や旅行会社はパンフレットなどを印刷したくてもできない状況とか。よって臨機応変に対応可能なウェブサイトなどのデジタル版での紹介に注力しているようです。
オミクロン株の感染拡大をみても残念ながらこの状況はしばらく続くでしょう。また次の新種が出てくるかもしれません。変更があるかもしれないと心得ておくのも、新しいクルーズ様式といえます。
2)地元的(じもとてき)
現在の状況ですと、フライ&クルーズ、つまり空路を使う乗船は少し厳しいでしょう。特に日本では出発国によって帰国時の自主隔離があるようですから、海外で乗船するのは少し先になるはず。
私が住む英国では現在、帰国後の隔離や旅行制限はありませんが、車や電車を使って陸路で乗船する人が激増しています。なぜなら、安心で楽で安上がりだからです。
昨年「クイーン・エリザベス」に乗船しました。自宅からサザンプトン港までタクシーで45分。これがヒースロー空港なら2時間弱かかります。クルーズターミナルで無料のラテラルフロー検査を受けて乗船しました。空港の同じ検査は自費で約1 万4000円します。国内クルーズだったので、下船時は特に検査なしでした。これが航空機で帰国すると再度自費の検査が必要で、厄介な帰国後連絡フォームの提出もあります。スマートフォンが必要で記入に30分以上もかかり、シニア世代には楽な仕事ではありません。
これに比べ、自分が住んでいる地元から陸路で乗船できたら、何事も楽です。今年も世界的にこのようなノーフライクルーズの傾向が強まるでしょう。航路や客船の選択は減るでしょうが、クルーズそのものを楽しむには何ら支障はありません。
3)持続的
コロナウイルスのニュースは日常化しました。クルーズ業界も同じです。運が良いことに、昨年クルーズが再開して以来、世界のどこかで客船が稼働しています。英国、地中海、中近東、カリブ海など。ある客船で感染者が出た、というニュースは頻繁にありますが、運航は続いているのです。これはワクチンや検査、感染対策強化のおかげでしょう。感染者が出たら船内で隔離できるよう、どの客船も乗船率を3分の2以下に減らして、空室を確保しているのです。
しっかりした健康プロトコルで乗客とクルーを守り、地元の港湾コミュニティにも協力を仰ぎ、下船や入港も許可されるようになりました。感染者が出ても続けていく。船内で危機管理し、コントロールしていく。これがコロナと共存する時代のクルーズではないでしょうか。
英語ではSTOP&GO(ストップ&ゴー)といいます。運航中止&再開を繰り返し、やがて復航していくでしょう。就航が遅れていた新造船も今年は多数デビューする予定です。
──これからの感染症対策はどうでしょうか。
運航を続けるために、強化されるとポジティブに考えたいと思います。乗客もクルーも、寄港地で接する人々をも守らなければなりません。
今年1月からキュナード・ラインがブースター(追加免疫)を乗船の義務にしました。3回目のワクチン接種が18歳以上の乗客に必要となったのです。クルーズの1週間前までに済んでいることが必要です。1月14日便の「クイーン・メリー2」、1月18日便の「クイーン・エリザベス」から始まりました。いつまでこの措置が続くか、すべての海域が含まれるか、詳細はわかっていません。
また寄港地で上陸するには、船内で自費のラテラルフロー検査なども適応されるようになりました。英国P&Oクルーズを例にとりますと、今年1月リスボンで上陸観光するには、約2800円の検査で陰性証明が必要でした。そしてカフェでコーヒーとエッグタルトを頼むにはワクチンを2回接種したことを証明するQRコードが求められたそうです。
乗船前の検査や乗船中の検温、定期的な陰性確認も、クルーズの日常として続くことが予想されます。
──クルーズを考えている方に、アドバイスをお願いします。
「ずいぶん変わってしまった」「規制が多く楽しめない」「いつになったら正常に戻るのか」などと、多くの方から質問やコメントを頂いています。クルーズが今後どうなるのか、私にもよくわかりません。
ただ言えることは、現状のクルーズで提供されるすべてを受け入れて楽しむこと。船上の時間はかけがえのないものです。モーニングコーヒーをデッキで楽しんだり、航跡をのんびり眺めたり、クルーズでしか味わえない環境をいま一度思い出してみませんか。
料理や掃除をしなくていいですから記念日を祝うのに最適ですし、船からの景色を味わったり人に出会ったり、レシピを学んだりする機会でもありませんか。日本船なら落語や歌手のショーなど非日常のエンターテインメントを満喫しましょう。
おなじみの旅行会社や船社をこの時期に作っておけば、最新情報やお得なクルーズもわかります。ウイズコロナの時代は、万が一の時に助けてくれるプロがいれば、きっと心強いと思います。
そして最後に、皆さんStay Heal thy(健康でいましょう)!
ダグラス・ワード
Douglas Ward
客船評論家。乗船歴55年。2021年末出版の「リバー・クルージング(欧州&北米版)」(インサイト・ガイド刊)の著者。乗船と執筆を精力的にこなす。音楽や庭仕事が趣味。刺身とジントニックの愛好者。英国在住。
★2021年末に出版された「リバー・クルージング(欧州&北米版)」(インサイト・ガイド刊、英語版)。インターネット通販のアマゾンなどで購入できます。
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