客船評論家ダグラス・ワードのクルーズ・ウォッチ

客船評論家ダグラス・ワード氏の連載。昨今のクルーズ業界を俯瞰し、
毎回テーマに沿って、分析&解説していきます。今号は2024年クルーズ業界の予測です。
客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 私の2024年クルーズビュー
世界最大客船として就航予定の「アイコン・オブ・ザ・シーズ」

【今号のテーマ】私の2024年クルーズビュー

――2024年は新造船の就航が多いですが代表的な3隻とは?

 

時系列にみてみましょう。まず1月に予定されている「アイコン・オブ・ザ・シーズ」(ロイヤル・カリビアン・インターナショナル)が期待されています。約25万トン、乗客数は約7600人になる史上最大の客船です。人の好みは皆異なりますが、クルーズ業界にとってコロナ後のうれしいニュースですよね。

 

洋上テーマパークのような本船で新しいクルーズ旅行が始まります。20デッキもの高さがある船内には40種類のバーやレストランがあり、デッキには7つのプールや滝がある温室風アクアドームも。2025年には第二の姉妹船がデビューする予定です。

 

次は2024年5月上旬に就航予定の「クイーン・アン」(キュナード)が業界から注目されることでしょう。11万3000トン、乗客数は約3000人で、同型の姉妹船クイーン・エリザベス&ビクトリアよりも大きめです。当初は1月にデビュー予定でしたが、遅延で変更されました。チャールズ国王の戴冠記念日になったのでベターチェンジだと思います。

 

2024年5月4日はキュナードの創立記念日で、2024年は185周年を迎えるのです。誰がクイーン・アンの名付け親になるのか。英国のクルーズファンはこれも楽しみにしています。これからの英王室を代表する高位女性王族として誰が命名者になるでしょうか。

客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 私の2024年クルーズビュー
2024年5月に就航を予定しているキュナード・ラインの「クイーン・アン」

そして2024年末12月には商船三井クルーズが新ブランドの客船をスタートさせますね。

 

「ミツイ オーシャン フジ」は約3万2000トン、乗客460人。ラグジュアリーな客船の「シーボーン・オデッセイ」を日本人向けに改装するそうですね。翌2025年には世界一周も発表されたので興味をもつ人も多いことでしょう。さらに新造船2隻が発注されたので今後が楽しみです。

 

客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 私の2024年クルーズビュー
商船三井クルーズから就航予定の「ミツイ オーシャン フジ」

 

――そのほか2024年の業界で気になる事項がありますか。

 

オーバーツーリズムの問題が更に深刻になってきました。客船の寄港地だけではなくて世界中の観光地で考えていくべき課題です。今後は客船の入港規制が厳しくなる港や国が増えるでしょう。以下は後の対策が注目されている港やエリアの一例です。

 

<欧州>
・ベニス
・バルセロナ
・アムステルダム
・ピレウス(アテネ)

 

<極地地方>
南極や北極圏

 

<氷河エリア>
・アラスカ
・北欧

 

典型的な例はベニスですね。2021年8月1日から2万5000トン以上の大きな客船はサンマルコ広場近くの運河を通過することが不可能になりました。繁忙期には観光客が多すぎて住民の足である水上バスに乗れなかったり運河の汚れなどが問題だったのです。

 

クルーズ客のような日帰り客には20?24年から試験的に5ユーロ(約800円)を徴収する入場料制度も始まります。しかし代替港がありますので大型船でもベニスへ行くのは可能。同様にオランダのアムステルダム港でも中央駅に近い客船ターミナルから市外にある外港のほうへ着岸することが増えています。

 

船社も乗客も、これからは持続可能なエコツーリズムを考え実践する時代ですね。

 

・可能ならピーク時を避ける
・有名観光地の代替えも考慮
・よりエコな客船を選ぶ

 

混む場所を避けるという事は私たち乗客にとっても良いと思います。行列に並びたい人はいませんし、再びコロナに感染するリスクを負いたくないでしょうから。

 

先日は「MSCエウリビア」に乗る機会がありました。2023年就航のMSCクルーズ客船です。(約18万トン)本船はLNG燃料客船(液化天然ガスに対応)で二酸化炭素の排出量ゼロで処女航海を完結。また入港中はエンジンを停止して陸上の電源を使用します。

 

このように多くの船社では、最新テクノロジーを駆使して地元の環境を守り地球温暖化を防ごうと努力が続けられているのです。今後もニュースを注目していきましょう。

客船評論家ダグラス・ワードの「クルーズ・ウォッチ」 私の2024年クルーズビュー
オーバーツーリズムが課題になっているベニス

――外国船の日本発着クルーズや日本寄港はどうでしょうか。

 

数隻の外国船が日本発着をリピートし始め、まるで定住するようになりました。日本から乗船できて便利ですね。

・ダイヤモンド・プリンセス
・クイーン・エリザベス
・MSCベリッシマ

 

などが通年または定期的にジャパンクルーズを運航しています。またフランスの船社ポナンの「ル・ソレアル」なども2024年に寄港します。ドイツの探検船である「ハンセアティック・スピリット」(ハパグロイドクルーズ)も日本一周クルーズをするとか。

 

このような小型の探検船が日本の小さな島々を訪ねることに、私は注目しています。例をあげれば沖縄や小笠原諸島、屋久島、北海道の島々など。クルーズ以外の旅や大型客船では行きにくい場所ですから価値がありますね。オーバーツーリズムとは異なり、少人数で自然を堪能するという趣旨のツアーが多いことでしょう。地元の人々との交流も可能かと思います。

 

2023年4月に横浜港でも5隻が同時入港する日がありました。クルーズが再開したという嬉しいニュースの反面、交通事情や働く人々はきっと大変だったはずです。多くの船社はオーバーツーリズムに配慮して新しい航程や寄港先を探し始めました。クルーズと観光はどう共存していくか、今後の大きな課題となります。

 

プロフィール

ダグラス・ワード

Douglas Ward

 

客船評論家。乗船歴59年。「CRUISING&CRUISE SHIPS」、「RIVER CRUISING(欧州&北米版)」(インサイト・ガイド刊)の著者。同社によるオーシャンクルーズ2024年版が新発売に。音楽や庭仕事が趣味。刺身とジントニックの愛好者。英国在住。

プロフィール

★2023年10月に世界の客船の詳細ガイド「CRUISING&CRUISE SHIPS」2024年度版が新発売に(インサイト・ガイド刊、英語版)。インターネット通販のアマゾンなどで購入できる。
http://www.amazon.co.jp

聞き手・翻訳=吉田あやこ
クルーズアンバサダー。乗船歴35年、在英30年。「クイーン・エリザベス2」と初代「飛鳥」の元乗組員。欧州クルーズを中心に乗船中。
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