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HOME > 特集INDEX > 特集「ニューノーマルなクルーズ新時代へ」 第2回 大型客船MSCグランディオーサの運航再開クルーズに乗船 客船評論家ダグラス・ワード氏が体験した大型船のニューノーマル
CRUISE最新号
特集 ニューノーマルな クルーズ新時代へ
大型客船MSCグランディオーサの運航再開クルーズに乗船
客船評論家ダグラス・ワード氏が体験した大型船のニューノーマル
客船評論家 ダグラス・ワード氏

日本船が運航再開し、世界でも少しずつ客船が動き出している。特に欧州では、小型船の運航再開に次いで、大型船の運航も再開されている。MSCクルーズの最大船に乗船した客船界の第一人者、ダグラス・ワード氏に大型船によるニューノーマルなクルーズについて聞いた。

乗客定員を減らしたゆとりある大型船

ベルリッツ刊「CRUISING & CRUISE SHIPS」において毎年客船の格付け評価を行っており、客船評論家として第一線で活躍するダグラス・ワード氏。弊誌の連載でも知られる同氏は、2020年9月、世界に先駆けて運航したMSCクルーズの最新であり最大船「MSCグランディオーサ」(181,541トン)に乗船した。MSCクルーズの拠点のひとつであるジェノバ発着で、ナポリ、パレルモ、バレッタなどに寄港する7日間のコースだ。

「MSCグランディオーサは乗客定員4800人超の客船ですが、実際の乗客は1100人、30パーセント以下の乗船率でした。施設が充実した大型船で乗客一人当たりのスペースが大きかったこともあり、非常にすばらしいクルーズでした」と語る。

MSCクルーズが、他の大型客船に先駆けて欧州での運航を再開した背景には「同社が家族経営の船社で、トップダウンで決定が出せたことが大きいのでは」とワード氏は推測する。MSCクルーズは新造船を続々と発注、20隻近い客船を保有する世界でも有数の大手船会社ではあるが、家族経営の船会社であり、独自のプロトコルの策定などこのコロナ禍において素早い動きを見せた。

乗客乗組員ともにPCR検査あり、港でも対応

乗船に当たっては、乗客は72時間以内のPCR検査の陰性証明書を提出するか、もしくは乗船港でのPCR検査を受ける必要があったという。「乗船港でのPCR検査は無料で30分~1時間程度で結果が出るので、非常にスムーズでした。またクルーはさらに厳しく、ジェノバに入る前に1回のPCR検査を受け、ジェノバで14時間の隔離期間を経て再度PCR検査が陰性ではじめて乗船、就労できる体制でした」。

ターミナルでのPCR検査を待つ乗客。ドリンクのサービスも

MSCクルーズの運航再開は世界に先駆けてのものだったが、船上生活はしっかりと感染症対策がなされていたという。「毎朝6時に防護服に身を包んだクルーが、デッキチェアなど共有物を丹念に消毒していました。乗客も毎日の検温が義務付けられていました」。

毎朝6時、防護服に身を包んだクルーが、デッキチェアなどを消毒する
乗客は毎朝の検温が義務付けられている

ダイニングでは、接触を避けるため紙のメニューは最初からは置かれず、スマートフォンなどでQRコードで読み取るとメニューが出てくる仕組みになっていたという。これについては同様のシステムを日本船の飛鳥Ⅱも導入している。もちろん紙のメニューも用意されていたが、7割程度の乗客はスマホでメニューを閲覧していたという。

加えて多くの席が2人席で、大人数のテーブルは廃止されていた。船内ではビュッフェレストランもオープンしていたがそれぞれ小分けにした小皿にカバーがかけられていて、こちらも感染症対策が取られていた。

ダイニングではソーシャルディスタンスを確保するため、使えない席も多かった。
食事やドリンクにもカバーをかけ、飛沫防止をしていた。

ちなみにワード氏が乗船したクルーズは、イタリア発着だったというのもあり、95パーセントがイタリア人乗客だった。英国在住の同氏は帰国後、14日の自主隔離を経なければならなかったという。もともと多くの国籍の乗客が集うMSCクルーズだが、状況的に当面は単一国民をターゲットにしたクルーズの実施が現実的なのだろう。

こうした国籍の単一化はクルーにも見られたようで、「もともとMSCクルーズのスパにはバリ島出身のインドネシア人が多く働いていましたが、今回はフィリピン人クルーが中心になっていました」。クルーズの楽しみのひとつに、様々な国から集う乗客やクルーが生み出すユニバーサルな空間が味わえることがあるが、その楽しみが再開するのは少し先のようだ。

「船自体が目的地」な乗客たち

日本船との大きな違いはといえば、寄港地での過ごし方だろう。MSCクルーズの場合、寄港地ツアーに参加しないと船外には出られないようになっていた。「寄港地ツアーに参加している人は最大で400人程度でしょうか」とワード氏は推定するが、その数が意外にも少なかったことに驚いた。「多くの乗客が船上でゆったりと過ごしていました。そもそも乗客定員を減らしていたので船内にスペースがあり、かつ大型船だったので船内施設が充実していて、皆それらを楽しんでました」。

こうした話を聞くと、欧州では「船自体が目的地」という意識が根付いているのが感じられる。船内イベントであるビンゴやシアターでのショーなども、ソーシャルディスタンスを確保して実施された。ただしソーシャルディスタンスを確保しにくい社交ダンスは実施されず、間隔をあけたディスコスタイルのダンスタイムが設けられたという。

プールデッキで間隔をあけてダンスを楽しむ人々
バーでも一席あけて座る

ワード氏は船上での感染症対策として「船内でのソーシャルディスタンスの確保」を重要項目の一つに挙げる。再開後しばらくの間は乗客定員を減らしたクルーズを実施するため、ソーシャルディスタンスを確保しやすいが、中には気を付けなければならない場所もあるという。

「今回はデッキでの人数制限を行いながらプールもオープンしていましたが、ジャクジーはソーシャルディスタンスを確保しにくい場所だと感じました。マスクをして入るわけにもいかない場所ですし。イタリア人、特に若い人はジャクジーを好むようで、その点は注意が必要だと感じました」。日本船ならびに日本の陸のホテルなどにある大浴場は船上のジャクジーよりもサイズが大きく、その点は心配いらないだろうとワード氏も補足するが、確かに意外な空間が密になってしまうことはありそうだ。

マスクに関して言えば、MSCクルーズでは客室以外のすべての場所での着用が義務付けられていたという。これはクルーズのみならず、全世界的な傾向だろう。その上で同氏が高く評価したのが、毎日客室にマスクが届けられていたこと。これにより乗客は毎日新しいマスクを着用することが可能だった。

クルーも乗客もマスク着用が基本。手袋をするクルーも
米国はフロリダから再開か

欧州には運航再開の動きが加速していたが、ここにきて再度感染が拡大しており、今後の動向が不透明な部分もある。そのほかの世界に関して、ワード氏はどう見るのか。「アジアに関しては、台湾が運航再開をしており、今後も運航再開が続くと思われます。中国発着もいずれ再開するでしょう」と予測する。

一方の米国は、CDC(米国疾病予防管理センター)が運航停止命令を解除したが、見通しが立てにくいという。「米国からのクルーズ、特にカリブ海などは寄港地が多くの国にまたがるため、国ごとの対応などに差があり、すんなりとはいかないかもしれません。とはいえ、大手船社は運航再開に向けてプロトコルを制定しており、フロリダ州の発着港、マイアミやフォートローダーデール、フォートエバーグレースなどから運航再開すると予測しています」と語る。もちろん船社は早く運航再開をして、以前の状態に近づけたいと考えているだろうが、焦りは禁物だとも言う。「今回のMSCクルーズでは、プロトコルの制定とクルーの訓練に予算を割き、非常に高い感染症対策を実施していました。こうした慎重な姿勢が重要だと思います」。

クルーズは「癒し」、不変の楽しみがそこに

最後にワード氏は、「今回のクルーズは久々なのもあって、本当に楽しみました。乗船したMSCグランディオーサはカラフルな船で、元気をもらいました。大海原を眺めたり、船内を散策したりすることで、心が満たされました。クルーズは私にとって、そして多くの人にとって“癒し”そのものだと思います」と語ってくれた。「だからこそ私は健康でいられるのです」とも。

図らずも今回の新型コロナウイルスの感染拡大は、それぞれの個人に対し、「人生で何を重要視するか」を意識させた側面がある。大海原を眺めながらおいしい食事に舌鼓を打ち、心に栄養を与える――クルーズのそんな魅力は、このコロナ禍にあっても不変のものなのかもしれない。

 

 

(聞き手&文=吉田絵里)
2020年10月2日実施

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