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HOME > 特集INDEX > 特集「クルーズ新時代に向けて」第4回:今後の客船における感染症防止策案とは【寄稿】池田良穂教授
CRUISE最新号
特集「クルーズ新時代に向けて」

第4回
今後の客船における
感染症防止策案とは

【寄稿】池田良穂教授
ダイヤモンド・プリンセス アトリウム

本誌CRUISE6月号では客船研究の第一人者である大阪経済法科大学・客員教授の池田良穂氏に、今後のクルーズにおける感染症防止策案などを寄稿してもらった。
一部を抜粋・加筆してお届けしよう。


●ダイヤモンド・プリンセスにおける隔離策は成功だったのか

「ダイヤモンド・プリンセス」(11万5906トン)における新型コロナウイルスの感染拡大は、世界の注目を集める事態となった。その時の日本政府の隔離策については、批判的な論調もあるが、結果から判断すると水際対策が成功した事例の1つと言ってよい。隔離開始直後の数日は、乗客、乗組員、医療チーム、国の間で混乱があったことが一部メディアで報道されたが、2700名余りの大人数の隔離作業であり、国も運航会社も初めての経験だったことを考慮すると、対応は比較的スムーズだったように思う。

●船内の換気についての誤解

今回のウィルスでは飛沫感染と接触感染が主な感染形態とされるが、一部にはウィルスを含む微細粒子(エアロゾル)が空中に留まることによる空気感染も疑われており、その場合には船内換気が問題となる。同船の空調では、客室の換気は1時間8回(1回で部屋の空気がすべて入替る)で、外部空気が30パーセント、船内循環が70パーセントの比率となっている。この換気量は病院の一般病室の基準をクリアしている。ただし、同船の場合には70%の空気は複数の客室と廊下を流れて循環している。

今回は、横浜での乗客隔離開始時点で排気リターンラインを遮断して船内循環を止めて、外気だけを取入れる処置がとられており、船室隔離後の空調による空気感染の可能性はない。なお、公室では1時間当たり10~15回で、外部空気と循環空気が50%ずつである。

また、最近の新造船では空調技術の発達により、個室ごとの独立ファンコイル方式がとられており、複数の船室を空気が循環することはないという。

まとめるとクルーズ客船の換気は陸上のビル、さらに病院に比べても遜色はなく、「換気の悪いクルーズ客船」という事実はなく、マスコミの流した間違った風評だったことになる。

●クルーズ客船船上での危機管理のあり方

クルーズ客船上の危機管理は、テロ対策を中心として進化をしており、最近の建造船にはブリッジ後方に安全対策管理室が設けられ、そこを統括する専任士官およびスタッフがおり、場合によっては船長よりも高い権限をもって種々の安全対策に当たっている。例えば乗客の船内見学時には、彼らが金属探知機でチェックをしてからでないと、ブリッジやエンジンルームには入れない。

今後は、この危機管理システムの中に、感染症の船内拡散の防止対応も委ねられることになろう。インフルエンザ等の既知の病原体の検査キットは船内に常備できるが、今回のように全く未知のウィルスの場合には船上での判定は難しい。

そのため、新感染症の船内発生の可能性が生じた場合には、まずは発熱や咳などの症状のある乗客・乗員の隔離が必要となる。さらに、今次の新型コロナウィルスのように、症状の出ない感染者が感染を広げる可能性のある場合には、全乗客・乗員の隔離が望ましいが、隔離した乗客の生活には、乗組員の貢献が欠かせない。

幸い、クルーズ客船は各船室にはベッドだけでなく、洗面施設、シャワー、トイレの設備があり、飲食物の提供もでき、テレビ等による外部情報の提供もできる環境にある。報道の中にも、「患者の隔離をリゾートホテルで行っては」という意見を述べた識者がいたが、クルーズ客船はまさに動くリゾートホテルであり、乗客の経過観察のための隔離施設としては標準以上のレベルをもつ施設だと言える。

一方、乗組員については、前述のように客室で隔離した乗客の生活を快適に維持する義務があり、すぐに完全隔離するのは難しい。このような場合には、サービス担当要員を総入替するのが最善だが、1000人もの乗組員の早急な総入替は現実的には難しい。まずは乗客に接する乗組員の健康確認を確認して、職務につかせるのが現実的対応であろう。

●船内医療体制の改善点

今回の新型コロナウィルス禍によって、クルーズ船の船内医療のソフトとハードの両面での改善が必要となった。

ソフト面では、船上医療スタッフの新感染症についての知識が不可欠となり、その研修が行われるようになった。さらに発病者や感染者の隔離のための病室の数が十分か、その機能が感染症にも対応できているかも今後の重要な検討課題となろう。

感染症対応の病室としては、感染者の隔離のための陰圧室と、まわりの汚染から健常者を守る陽圧室がある。陰圧室とは室内圧力を低くして空気が外部に漏れなくした部屋で、陽圧室とは室内圧力を高くして外部の汚染された空気が室内に侵入しない部屋だ。船内の病室にこの機能をもたせることは可能だし、さらに広げて、船内の一部の区画に陰圧室または陽圧室の機能を持たせて、ゾーン分けができるようにすると病院船として活用もできるようになり、クルーズ客船の安全性のアピールに有効だろう。

●クルーズ業界に与える影響

クルーズは、これまでもノロウィルスやインフルエンザ等の各種感染症の船内感染、また陸上でのSARS感染等による運航休止等を乗り越えてきた。

またテロや海難のリスクに対しても、例えば、ニューヨークでの航空機による同時多発テロでは、飛行機の利用を嫌う人が急増して、ニューヨークをはじめとする大都市発着のクルーズが復活して、フロリダ一極だったクルーズ発着港が広がり、それがマーケットの拡大につながった。

ほかにも「ダイヤモンド・プリンセス」の建造中火災や「コスタ・コンコルディア」の転覆事故等は、その後の安全性向上につながると共に、事故が大きく報道されてクルーズの認知度が増してマーケット拡大につながったとも言われている。

ただし、今回の新型コロナウィルス禍がクルーズ界に与える影響が、日本で一番深刻になる可能性があることには注意しておきたい。それは、国内での感染爆発のはじまりがクルーズ客船で、連日のように日本中に報道されたことにある。そして「新型感染症」といえば「クルーズ客船」という間違ったイメージが巷で広がってしまった。業界、クルーズ愛好家は一致団結してこの間違った風評に歯止めをかけなくてはならないと思う。

一方、クルーズマーケットの大きい欧米や中国では、陸上での感染拡大が中心だったのでこうした風評は定着していなさそうだ。新型コロナウィルスへの治療薬の開発・普及が進み、コロナ禍が収束すれば、再び、多くの人々がクルーズを楽しむようになるに違いない。

 

 

文=池田良穂(大阪経済法科大学・客員教授)
(2020年6月4日寄稿)

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