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HOME > 特集INDEX > 特集「クルーズ新時代に向けて」第12回:クルーズ再開の条件を考え、実行する 【寄稿】冨岡勉代議士
CRUISE最新号
特集「クルーズ新時代に向けて」

第12回
クルーズ再開の条件を考え、実行する
【寄稿】冨岡勉代議士

冨岡勉代議士

衆議院議員で、医学博士でもある冨岡勉代議士。地元・長崎に停泊中だった「コスタ アトランチカ」で発生した乗組員の新型コロナウイルス感染では、事態の収拾に向け先頭に立って尽力した。その経験に基づき、冨岡代議士に医学的な視点から考える今後のクルーズ再開に向けた方策などについて寄稿してもらった。

「コスタ アトランチカ」対応で見えた有用な対処とは

2019年末、中国武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は瞬く間に世界中に広がり、今なお猛威を振るっている。これまでクルーズは世界的にも国内的にも成長産業の一つであり、国内のクルーズ船寄港回数も順調に拡大傾向が見られていたが、COVID-19の感染拡大により様相が一変した。

すなわち2020年2月、横浜港に寄港した「ダイヤモンド・プリンセス」の乗客・乗員合計約3,700人のうち、PCR陽性患者が約700人発生したことである。さらに4月には、修繕のために長崎港に停泊していた「コスタ アトランチカ」にて、乗客はいないものの、乗員623人中COVID-19患者149人の発症を見るに至った。幸いにも入院加療を必要とする者は少数であり、うち重症患者は1人だけであった。

この時威力を発揮したのは野戦病院施設ともいえる検診車両、診療車両、CT車両、入院車両など移動できる設備を港に展開できたことである。特に軽度の症状を有し、入院の必要性の判断に迷うような症例に対し行ったCT検査の有用性が示された。

自衛隊から派遣されたCT車

これら設備を利用することにより、幸いにも寄港から3カ月余りののち全員が帰国の途につくことができ、この間の死亡症例は0という良い結果を残すことができた。

これらの経過から学ぶもの

長崎において死亡者を1人も出すことなく、すべての患者が無事帰国できたのは、

  • 1.「ダイヤモンド・プリンセス」の経験に基づき、国などから自衛隊CT車両、DMAT等の派遣や指示を受け、迅速かつ的確に対応できたこと
  • 2.長崎県の主導により、長崎大学、長崎県医師会などの協力体制がすでにできており、役割分担がうまく機能したこと
  • 3.この結果、船内療養・入院治療などの指令が迅速に行われ、患者の重症度別分類等の対応がスムーズに行われたこと
  • 4.PCR検査と同等の診断能力を有する長崎大学熱帯医学研究所(熱研)で開発されたLAMP法をいち早く多用し、多数の乗組員の診断をわずか4日でやり遂げたこと
  • 5.日本で唯一稼働するBSL-4(※)を運営する熱研が豊富な人材を有しており、診断および治療のエキスパートが県内に多数そろっていたこと

など有利な条件をそろえており、これが早期診断・的確な治療につながっていったことが原因と考えられる。

※編集部注:BSL(バイオセーフティーレベル)とは細菌・ウイルスなど病原体等を扱う施設の管理レベルのこと。レベル1~4に分類されており、BSL-4が最高度

クルーズ再開に向けての条件と方策

以上述べたように、近年盛んになったクルーズを安全に再開し、以前にも増して盛んにするためには、これまでにも増して種々の問題解決のハードルを越えなければならない。以下にその方策を考えた。

1.船内消毒
今回のCOVID-19により、従前どおりの通路の清掃・部屋の清掃以上のものが求められるようになった。乗客が安心して長期間の船旅を楽しむために、通路・客室・イベント広場・調理室・デッキなどは清掃のみならず、殺菌・消毒をする必要が生じたのである。最低1週間に一度、丸ごと大規模な消毒を行う必要が生じているものと思われる。

したがって、咳嗽(がいそう)時のエアゾール化した飛沫微粒子内にウイルスが存在すること等に鑑み、これからは既存の消毒法に加え、エアーダクト内や通路について、高速ジェット噴霧機器などを用いて消毒する必要がある。これに加えて紫外線やオゾン・薬剤散布などの作業を行えば理想に近い消毒法となる。人手だけでなく、これらを行える作業ロボット等を用いた新たな消毒法を導入するためにも、急いでその開発などを行う必要がある。

2.改良型LAMP法の導入
患者の診断にあたってはPCR検査が確定診断の方法となる。前述のように、PCR法に代わるLAMP法は最近多く用いられるようになってきた。2020年5月からはPCR法やLAMP法も咽頭拭い液に代わり唾液を用いることが認められるようになった。むしろ正診率は、唾液を用いたほうが良いことが、文献的にも確認されている。また唾液を用いる場合、自分で検体の採取ができ、医師が行わなくても良いことも特徴である。

さらに「改良型LAMP法」を用いれば、およそ30分程度で多くの患者の検体検査が一度に行われるようになる。仮に、乗客2,000人を乗せているクルーズ船でもこの新型LAMP機器を10機使えば2時間程度で乗員乗客全ての検査を行うことが可能となる。これは、乗船前検査による診断を可能とする。また船内にもこの新型機器を1台据えておくことで、クルーズ旅行中に症状が現れた乗船者に対しても、寄港地において下船する乗客に対しても迅速に検査を行うことができ、ただちに隔離治療を行うことを可能とする。

3.港での治療体制の整備(モバイルホスピタル構想)
今回の新型コロナウイルス感染症患者収容病院においては、多数の院内感染の発生が認められた。その原因としては、当該患者のCT検査を行う際に他の入院患者や外来患者のCT検査と同じ検査室を使うことが多く、動線がクロスする病院が大半であったことが指摘されている。CT検査ですりガラス状陰影を認めた場合には、状態が急速に悪化し、死に至るケースがあり注意を要する。そのため、コロナウイルス感染症患者にとってCT検査は必須と言える。

したがって、船内で陽性患者が大量に発生した場合などを想定し、港におけるモバイルCT検査車両等を配置することにより、院内感染・医療崩壊を防ぎつつ、重症化する患者を早期に発見できることが理想的である。そして、クルーズ旅行を再開・継続して行う場合には、あらかじめ国内数カ所の寄港地に移動可能な病院(モバイルホスピタル)を準備しておくのが望ましいと考える。

モバイルホスピタルとして活躍が期待されるメディカル・コンテナ・キューブ

モバイルホスピタルにはCT車両のほか、検診(診察)車両・入院車両等を備えることにより、患者を大学病院に直接運ぶことなく(一般患者と動線を同じにすることもなく)、重症度による入院先を決める層別分類を行うことが可能になり、港での宿泊療養、あるいは入院治療などの判断が可能となる。

クルーズ船が取り入れるべき対策

新型コロナウイルス禍のもとクルーズ産業は今後も生き残れるかと多くの関係者が思っている。これまでもクルーズ客船内においては種々の感染症拡大事例が発生してきた。そのため、現在の日本で当たり前に目にするアルコール系消毒液での消毒等の除菌も、それに先立って船内のレストランやイベントホールなどでは導入されている。また、定番になっているビュッフェレストランにもガラスガードがついている客船が多くみられる。

しかし、これまでの感染症対策とは異なり、COVID-19の対処には多くの面で解決しなければならない諸課題が存在する。一般に新型コロナウイルスの感染形態は、飛沫感染と接触感染さらには微細粒子(エアロゾル)による空気感染が主体だと考えられている。

最近の新造船では個室ごとの独立ファンコイル方式が取られており複数の客室を同じ空気が循環することはないという。つまり最新のクルーズ客船の換気システムは現在陸上のビル、病院の手術場に比べても劣っているとは言えず、乗客の船室での空調による空気感染の可能性は少ないものと言える。ただし、これはごく最近の新造船に限られており、船齢の高い船は注意を要する。

また、船内に感染が広がらないための陰圧隔離室などの設備の整備する必要がある。除菌のため空気処理機のフィルターを高性能のエアーフィルターに替える処置も必要であろう。そして、これまでの感染症に比べ、診断を下す際にもPCR法やLAMP法に習熟した医務要員の乗船が不可欠になる。

●最後に

今回はクルーズの再開に向けて、諸課題の整理を行った。まず言えることは、クルーズを再開するための条件をあらかじめ想定し、その手順に従って速やかに対策を講じることが非常に重要ということである。すなわち、

  • 1.既存の消毒法に加え、エアーダクト内や通路を、紫外線やオゾン・薬剤散布などの作業を行う、新たな消毒法を導入するべきである。
  • 2.COVID-19に対しては、抗原反応を用いた唾液検体による迅速かつ多人数の検査が廉価に行われる方法が確立されつつあり、PCR法やLAMP法等によっても、乗船前・乗船中、さらには下船時にも診断がなされる方法を有効活用すべきである。
  • 3.入港時には患者を一時的に隔離診断・治療・経過観察ができるモバイルCTを含むモバイルホスピタルが港に準備されていることが望ましく、その整備を行うべきである。
  • 4.このような体制を整備することにより、乗客は安心して長期のクルーズ旅行をすることができ、長崎港など日本の港を訪れることができるものと考えられ、わが国は早急に体制を整えるべきである。

これらの手法は今後取り組まれる野球・サッカー等のスポーツ観戦、演劇・コンサート等の各種イベント、さらには「オリンピック・パラリンピック開催」に向けての重要な共通対策手段になるものと考える。


文=冨岡勉(衆議院議員/医学博士)
(2020年7月17日寄稿)

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